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2008年8月26日 (火)

第111回:アメリカの3つの重要裁判(私的複製の範囲の広がり・オープンソースライセンスの有効性・フェアユースの重要性)

 大体は日本語の記事にもなっているのでご存じの方も多いと思うが、いくつかアメリカの裁判所でいくつか重要な判断が最近相次いで示されているので、個人的なコメントと一緒にアメリカの裁判の話をここで少しまとめて書いておきたい。

(アメリカの判例自体は、当然アメリカ国内でしか効力を持たないが、日本でも法学者や裁判官はアメリカの判例を良く研究しており、日本の判例や立法にもそれなりに影響してくるので、知っておくに越したことはないだろう。)

(1)私的複製の範囲の広がりとネットワーク録画機の合法性
 アメリカの連邦巡回控訴裁判所が、この8月4日に、リモートサーバーへデータを蓄積する、いわゆるネットワーク録画機の利用を合法とする判決を出している(日経TechOnの記事ITmediaの記事ITproの記事EFFの記事EFFの記事内の判決文へのリンク参照)。

 2006年にケーブルビジョン社が、通常のケーブルTVサービスと一緒に、個々の視聴者の求めに応じて、リモートサーバーへ録画した番組の再生を行うサービスを提供したところ、案の定映画会社等に訴えられたという事件である。判決文はかなり長いのだが、要するに、ケーブルビジョン社が録画・再生に対するコントロールをしておらず、録画・再生が完全に個々の視聴者・STB毎になされることを理由に、サーバーへの複製行為は視聴者がしたものとして、ケーブルビジョン社の著作権侵害を否定しているのである。(このケースでは、ケーブルビジョン社がサーバーへ最初の放送と同時に番組の複製を作っており、視聴者の録画操作毎に番組データを一つ一つ蓄積している訳ではないだけに少しやっかいなのだが、それでも通常のビデオへの録画と実質的に大きな違いはないとしている。)

 この問題は、公正利用がどうこうというより、リモートサーバーへの複製行為を行っているのは誰か、私的複製の範囲をどう考えるかという問題である。最高裁へ上告されているのかどうかは分からないが、アメリカでこのように、その機械的動作ではなく、利用者から見た実質的な動作から、リモートサーバーまで私的複製の範囲が及ぶとする判決が出ていることは極めて興味深い。類似の事件は、日本では、完全に録画機の置き場所貸しに徹したまねきTV事件(internet watchの記事参照)を除いて、ことごとくネットワーク録画機は違法とされているのだが、日本でも、もう少し私的複製の範囲について柔軟な判断がなされても良いのではないかと私は思う。利用者から見た実質的な動作はほとんど違わないにも関わらず、完全に家庭内で録画機を使う場合と、リモートサーバーを使う場合で、判断が違うというのは大きな違和感を感じるのだ。(無論、ここに大きな法律上の議論があることは知っているので、この手のネットワーク録画機に関する各種事件のまとめも書きたいと思っているところである。)

(2)オープンソースライセンスの有効性と著作権法によるエンフォース
 やはり連邦巡回控訴裁判所が、8月13日には、オープンソースライセンスに違反しソフトを改変して頒布する者を著作権侵害に問えるとする判決を出している(ITmediaの記事知財情報局の記事マイコミジャーナルの記事参照)。

 一見何でもないことに見える気もするが、アメリカの経済的重要性も考えると、CNETのブログで、レッシグ教授が判決文へのリンクを張りつつ述べているように、この判決は非常に重要である。

 リンク先の記事にも書かれているように、アメリカの著作権法には法定損害賠償があり、契約法の下で訴訟を起こしたときよりも著作権法で訴訟を起こした方が簡単に差し止めができるという特殊事情もあり、オープンソースライセンスのように非常に広い非排他的ライセンスの場合に、ライセンス違反について、ライセンスが広すぎるために著作権法上の責任を問えず契約違反にしかならないのか、それとも、著作権違反を問えるのかがエンフォースにおいて非常に大きな差となって効いてくることになる。

 もし、地裁判決のように前者の考え方が維持されたとすると、非常に広い非排他的ライセンスであるが故にその損害額も不明として、差し止め等に困難を生じ、アメリカにおけるオープンソースライセンスのエンフォースが実質的に不可能となる可能性もあった訳であり、オープンソースの潜在的利益・下流ユーザーのコントロールの必要性を認め、著作権侵害の可能性を認めたこの判決の意味は確かに大きいだろう。(著作権法の法定損害賠償などのアメリカの制度はどうかと思うところもあり、当然日本では事情は違ってくるだろうが。)

(3)フェアユースの重要性と動画投稿サイトにおける著作物の利用
 以前少しだけ紹介したことがあったかと思うが、赤ん坊が踊る30秒足らずのYoutube投稿動画のBGMが著作権侵害であるとして、削除された問題で、投稿者である母親がノーティスアンドテイクダウン手続きの濫用であるとして訴えていた裁判においても、この8月20日に、連邦地裁が著作権者は著作権法に基づく手続きを進める場合には、訴えの対象がフェアユースに該当するかどうかを考慮すべきであるとの判断を示している(CNETの記事ITmediaの記事EFFの記事EFFのまとめ記事内の命令文へのリンク)。

 この判断もまた非常に重要であることは論を俟たない。一般フェアユース規定は、決して万能ではないが、ネットのように、誰もが表現者たり得、様々な利用が考えられる場において、ケースバイケースで、個人ユーザーと企業・団体間のバランスを取る役割も果たし得るのではないかと思われる。ただ、この判断は、Universal側の反対理由を退けている中間命令に過ぎないので、お互いにかなりエキセントリックな主張をしているこの裁判の勝敗の帰趨は良く分からない。

 これらの裁判は全て最高裁まで行った訳でもなく、まだ判例として本当に定着しているとは言えないかも知れないが、保護と利用のバランスを考慮した判例がアメリカにおいても蓄積されることを個人的には期待したい。

 次回は、この命令などでも書かれているアメリカのフェアユースの要件の紹介と合わせて、日本におけるフェアユース導入の議論をしようかと思っていたのだが、警察庁が、出会い系サイト規制法のガイドラインと施行規則の改正案をパブコメにかけている(ガイドラインパブコメ(9月5日〆切)、施行規則パブコメ(9月22日〆切)、internet watchの記事参照)ので、次回はこれらの話を書くことになると思う。

 なお、少し古い記事だが、イギリス政府が、違法ファイル共有対策案についてパブコメを募集しているというニュース(Zeropaidの記事イギリス政府のHP対策案レポート)も一緒に念のため紹介しておく。最も好ましいオプションは基本的に今の対策の延長線上にあるのだが、オプションの中には、著作権検閲などのかなりきついオプションも含まれており、イギリス政府が今後どのような対策を取って行くのかは要注目である。(きついオプションはそれだけ、実現は難しいと思うが。)

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