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2008年6月20日 (金)

第103回:知財計画2008の文章の確認

 この6月18日に2008年版の知財計画(本文参考資料パブコメ結果概要団体提出パブコメ個人提出パブコメ)が知財本部で決定された(internet watchの記事日経のネット記事知財情報局の記事参照)。

 今年も、こんな分厚い計画を作ることに何の意味があるのかと思うほど分厚い計画になっているが、この計画は、政府における知財政策検討のエンサイクロペディアとして、政府内の感触を掴むには非常に便利なものなので、第71回などで指摘した箇所が、どう変わったかを、今回は確認して行きたいと思う。(なお、私が提出したパブコメは第79回に載せた。)

 まず、ダウンロード違法化問題については、第90ページで、

②利用と保護のバランスに留意しつつ適正な国内制度を整備する
ⅰ)コンテンツの利用を円滑化するため、次の事項について2008年度中に法的措置を講ずる
a)権利者不明のコンテンツの利用を円滑に進めるための対策
b)違法複製されたコンテンツからの私的複製の許容範囲の見直し
c)障害者による著作物の利用促進のための権利制限規定の整備
また、著作物のライセンシーの保護等の在り方、いわゆる間接侵害の明確化、法定損害賠償及び複数の権利者が関わるコンテンツに関する望ましい権利行使の在り方等について、2007年度の検討成果を踏まえてさらに検討
を進め、2008年度中に結論を得る。
(文部科学省)

という記載になった(赤字強調は私が付けたもの)。ダウンロード違法化をしないことと書き込まれなかったのは残念であり、この記載を見る限り、文化庁はやはりダウンロード違法化を諦めてはいないと見えるので、この点は、ユーザーにとって最大の著作権問題の一つとして、今年も引き続き動きを注視して行かなくてはならないだろう。また、様々なサービスに対する影響が大きい間接侵害に関する議論なども、文化庁の文化審議会で議論されると考えられるので、やはり気をつけておく必要がある。

 また、保護期間延長問題については、第91ページで、

ⅳ)著作物の保護期間の延長や戦時加算の取扱いなど保護期間の在り方について、保護と利用のバランスに留意した検討を行い、2008年度中に一定の結論を得る。
(文部科学省)

と去年と同じ内容で、期限だけを2008年度と先延ばしにした形になっている。著作権保護期間延長問題については、役所以外では既にほぼ結論が出ているように思われるが、文化庁としては問題の引き延ばしをしたいのだろう

 最近何かと騒がしい私的録音録画補償金問題とコピーワンス問題については、第91ページに、

④私的録音録画補償金制度の見直しについて結論を得る
2007年度における検討の成果を踏まえ、技術的保護手段の進展やコンテンツ流通の変化等を勘案しつつ見直しを進め、私的録音録画補償金制度の見直しについて2008年度中に結論を得る。
(文部科学省、経済産業省)

⑤技術革新のメリットを享受できるプロテクションシステムの採用を促す
コンテンツの流通を促進するに当たり、技術革新のメリット・利便性を国民が最大限に享受できるようにするとの観点も踏まえ、視聴者利便の確保と著作権の適切な保護を図り、あわせてコンテンツビジネスが拡大するよう、バランスのとれたプロテクションシステムの策定・採用を促進するため、以下の取組を進める。
a)デジタル放送のコンテンツ保護に関するルール及びその担保手段の在り方について、権利者が安心してコンテンツを提供できる環境整備の観点やユーザーにとっての使いやすさへの配慮等を踏まえて検討を行い、2008年度中に一定の結論を得る。
b)民間事業者において動画配信サービス等のプロテクションシステムを検討する場合は、権利者が安心してコンテンツを提供できる環境やユーザーの使いやすさに配慮したルールの採用を奨励する。
(総務省、文部科学省、経済産業省)

と書かれており、去年より短く整理されているが、ここも2008年度中と先延ばしの記載である。個人からのパブコメでは結構言及されていたのだが、ここで、B-CAS問題に関する検討が書き込まれなかったのは残念である。

 特に、ダビング10については、権利者団体側が、HDD課金を棚上げとして、容認する発言を総務省の情報通信審議会でしたようであり(日経のネット記事ITproの記事AV watchの記事internet watchの記事マイコミジャーナルの記事ITmediaの記事参照)、来月実施される公算が高くなっている。ブルーレイ課金など、省庁間の不透明なプロセスで物事を決めようとすること自体どうかと思うが、確かに今のまま膠着状態を続けていても誰も得をしないので、訳の分からない不当な課金抜きで弥縫策としてダビング10を実施できるならしてもらっても構わない。ただ、このダビング10の実施で、さらに地デジ関係のDRM・著作権問題はさらに混乱し、混迷を深めるのではないかと私は予想する。

 また、第92ページには、ネット規制法との関連が明記されている訳ではないが、フィルタリング促進について以下のように書かれている。

⑦青少年を有害情報から守るための取組を奨励・支援する
有害なコンテンツから青少年を守るため、フィルタリングシステムの構築など業界の自主的な取組を促進するとともに、学校関係者、保護者、関係業界に対する広報啓発活動や連携強化を促進する。
(警察庁、総務省、文部科学省、経済産業省)

 ネット規制法が成立したこともあり、ここに書かれている省庁がそれぞれフィルタリングに関する予算などを計上してくることだろう。天下り利権の無意味な拡大につながらないよう、特に、これらの各省庁のフィルタリング関連施策には目を光らせておく必要がある。

 さらに、これは今年からだと思うが、違法ファイル交換について、以下のように書かれている。

②違法コンテンツ配信の根絶に向けた取組を推進する
ⅰ)2008年度から、Winny等のファイル共有ソフトを用いて著作権を侵害してファイル等を送信していた者に対し、警告メールを送付するなど電気通信事業者と権利者団体が連携した侵害行為を排除する仕組みづくりを支援する。
(警察庁、総務省、文部科学省)
ⅱ)ファイル共有ソフトを悪用した著作権侵害事犯に対し、著作権団体との連携を強化し、効果的な取締りを実施する。
(警察庁)

 今のところファイル交換におけるアップローダー対策として書かれており、各関係者の地道な取り組みを否定するつもりは全くないが、警察庁・総務省・文化庁が絡む検討でロクなアウトプットが出てきたためしがないので、ここも要注意だろう。

 また、いわゆる著作物の公正利用の類型、フェアユース関連は、第85~86ページに、

②ネット検索サービス等に係る法的課題を解決する
次世代をリードする情報の検索・解析・信憑性検証技術の開発・国際標準化による先進的な事業の出現を促進するとともに、ネット検索サービスが円滑に展開されるよう2008年度中に法的措置を講ずる。また、利用者に応じて、適した商品等の情報を提供するサービスが円滑に提供できるよう、利用者のプライバシーを保護しつつ利用者に関する情報を安心・安全に収集・蓄積・活用するための方策等について検討を行い、2008年度中に一定の結論を得る。
(総務省、文部科学省、経済産業省)

③コンテンツ配信に伴うサーバー上の複製行為等に係る法的課題を解決する
コンテンツ配信の通信過程において端末やサーバー等で生じる一時的な蓄積について、通常の通信過程における機器の利用であって権利者の利益を不当に害しない場合は著作権法上権利を及ぼさない措置を導入するなど、一時的蓄積等に係る法的課題を解決するための検討を行い、2008年度中に法的措置を講ずる。
(文部科学省)

④研究開発における情報利用の円滑化に係る法的課題を解決する(再掲)
ネット等を活用して膨大な情報を収集・解析することにより高度情報化社会の基盤的技術となる画像・音声・言語・ウェブ解析技術等の研究開発が促進されること等を踏まえ、これらの科学技術によるイノベーションの創出に関連する研究開発については、権利者の利益を不当に害さない場合において、必要な範囲での著作物の複製や翻案等を行うことができるよう2008年度中に法的措置を講ずる。
(文部科学省)

⑤リバース・エンジニアリングに係る法的課題を解決する
革新的ソフトウェアの開発や情報セキュリティの確保に必要な範囲において、コンピュータ・ソフトウェアのリバース・エンジニアリングの過程で生じる複製・翻案を行うことができるよう2008年度中に法的措置を講ずる。
(文部科学省)

(3)デジタル・ネット時代に対応した知財制度を整備する
デジタル・ネット時代に対応したコンテンツ産業の振興を図るため、新たなコンテンツの利用形態を視野に入れた流通促進の枠組み、包括的な権利制限規定の導入も含めて新たな技術進歩や利用形態等に柔軟に対応し得る知財制度の在り方、ネット上の違法な利用に対する対策強化等について早急に検討を行い、2008年度中に結論を得る。また、コンテンツ市場の拡大に向けて、既存のメディアにとらわれない新規事業の創出など、デジタル・ネット時代に対応した新たなビジネスモデルの構築に向けた取組を支援する。
(内閣官房、総務省、文部科学省、経済産業省)

と書かれ(赤字強調は私がつけたもの)、図書館での著作物のデジタル利用については、第95ページに、

(4)国立国会図書館のデジタルアーカイブ化と図書館資料の利用を進める
国立国会図書館において行われている貴重な図書等のデジタル化やインターネット情報資源等を収集保存し、ネット上で一般ユーザーの利用に供する取組について、その促進が図られるよう一層の連携を進める。
このため、権利者の経済的利益や出版ビジネスとの関係を考慮しつつ、国立国会図書館における蔵書のデジタル化の推進に必要な法的措置を2008年度中に講ずるとともに、国立国会図書館と他の図書館等との連携や図書館等利用者への資料提供の在り方については、関係者間の協議を促進し、2008年度中に一定の結論を得る。
(文部科学省、関係府省)

と書かれている。包括的なフェアユース規定の導入がどうなるかは予断を許さないが、少なくとも、検索エンジンや研究目的などの個別の権利制限規定については、是非、早期に導入してもらいたいと思う。著作権法によって、情報の公正利用が阻害され、文化と経済の正常な発展が阻害されているという状態は、一刻も早く解消されてしかるべきなのだから。

 著作権問題の本質は、技術の発展によって生まれた新たな公正利用の類型に全く対応できていない今の著作権法によって、文化と経済の発展に素直に寄与する情報の公正利用が阻害されていることにあり、既存のコンテンツのネット流通が進まないことにある訳ではないということがなかなか理解されないのは残念であるが、コンテンツ流通促進法についても、

①デジタルコンテンツの流通を促進する法制度等を整備する
放送事業者と権利者団体間の契約ルールの策定やコンテンツ関連情報の集約化など2007年度中に一定の結論が得られた事項については実施に向けた取組を支援するとともに、権利処理の円滑化等のデジタルコンテンツの流通に関する課題や国際的枠組みについて引き続き検討を行い、最先端のデジタルコンテンツの流通を促進する法制度等を1年以内に整備し、クリエーターへの還元を進め、創作活動の活性化を図る。
(総務省、外務省、文部科学省、経済産業省)

と1年以内に何かの法制度等を整備すると書かれている。今年も、コンテンツ流通が知財政策上のキーワードの一つとして取り沙汰されるのだろうが、コンテンツ流通はビジネスマターであって政策マターではない。政官の政策担当者が、政策マターとビジネスマターの分離が全く出来ていないことも、また、今の政府における政策検討を迷走させている一つの要因となっているだろう。

 最後に、ここで著作隣接権の検討という記載が削除されなかったのは残念であるが、情報通信法については、第85ページに、

①通信と放送の垣根を越えた新たなサービスへ対応する
通信・放送の法体系の見直しについては、コンテンツの生産・流通・消費を最大化する方向で検討を行い、2010年を目途に結論を得る。また、通信・放送の法体系の見直しの状況を踏まえ、新たなコンテンツの創作への寄与等を考慮しつつ、利用者からみたサービスの形態に応じた、権利関係の規定の見直しや著作隣接権の在り方の検討を2008年度から開始する。
(総務省、文部科学省、経済産業省)

 と書かれている。この情報通信法に関については、表現の自由や通信の秘密の点からして疑問だらけなペーパーを総務省が作ってきているので、その点をまず注意するべきだが、著作権に関する点でも非常に危うい。著作隣接権をネットで発生させることは百害あって一利ない最低の施策と私は断言できる。

 著作権問題に関しては、結論が出ていた著作権の非親告罪化についての記載が消え、どの記載においても、明確に規制強化寄りとならなかったのは最低限良かったとしても、私的録音録画問題を中心に、本当に国民本位の検討をするとまで役所の意識が進んでいないことが見て取れるのは非常に残念である。公正利用の各類型に対する権利制限一つとっても安心はできない。実際に知財に関する規制緩和の法改正がなされ、安定した運用がなされるまで、私は一国民として厳しい目を向け続けるだろう。今年も、主戦場となるだろう私的録音録画問題を中心に、私は地道に追いかけて行くつもりである。

(今回は、著作権問題中心に紹介したが、無論、第95回で取り上げたような、特許など他の知財権に関することも書かれているので、参考になりそうな点は随時紹介して行きたいと思う。)

 なお、児童ポルノ法に関する記載は去年も今年も知財計画中にはないのだが、個人提出のパブコメには、児童ポルノ法の改悪反対の意見が多く見られる。フィルタリングなど、コンテンツに関係していさえすればと、何でも計画の中に取り込んでしまっている知財本部も悪いのだが、このような民意について、政官の政策担当者はどう考えているのだろうか。

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受信: 2008年6月26日 (木) 23時31分

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