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2008年6月17日 (火)

第102回:カナダの著作権法改正案

 6月12日に、カナダで、著作権法の改正案が政府から提出されたというニュースがあった(Canadian Pressの記事1記事2GLOBE AND MAILの記事marketwireの記事NATIONAL POSTの記事1記事2ITmediaの記事カナダ政府のニュースリリース参照)ので、今回は、この話を取り上げたい。

 第34回で少しだけ書いたように、カナダでは著作権法改正に対する反対運動もあり、政府内で改正法案の見直しをしていたようである。この法改正に、タイムシフトやプレースシフトのための権利制限や、教育・研究目的のための権利制限などの追加が含まれているということまでは良いのだが、今回公表された案では、カナダでの反対運動の中心の問題点だったDRM回避規制に加えて、ダウンロード違法化まで加えられて来るなど、全く評価できない改正も含まれており、ユーザーからの批判が高まっているものと見える。

 政府としては、法定賠償金額(今までは最高2万ドル)を、非商用レベルの侵害で500ドルに、さらに著作権侵害と知らずにダウンロードやDRM回避をした場合について200ドルまで下げることで、権利者と利用者の間のバランスを取ったとしているようだが、上でリンクを張った記事などでも、当然、エンフォースや実効性の面で問題がある等、日本と全く同じ指摘を関係者から受けている

(また、インターネットサービスプロバイダー(ISP)の責任制限も同時に行っているが、ある程度の書式が整っていれば、ISPは権利者からの侵害ノーティスをそのまま侵害していると思われる者に転送しなければならず、情報を開示するかどうか自体は裁判所で決まるものと思われるが、訴訟のために侵害していると思われる者を特定する情報を6ヶ月間保持しなければならないなど、ISPの義務もかなり重い。) 

 カナダの現行法のフェアディーリング規定は、研究あるいは私的学習の目的に限られるなど、イギリス型の狭いものだが、記事などによると、単なるダウンロードユーザーの個人情報開示を認めないとする判例もカナダにはあるようであり、このような法改正案では、今まで判例の積み重ねなどで事実上認められてきたことが認められなくなり、対ユーザー訴訟の乱発を招くのではないかとユーザーが強い懸念を抱くのも無理はない

  法案自体公表されているPDF版現行法)ので、念のため、問題箇所の翻訳もしておくと、改正法案は、フェアディーリングとして、例えば映像に対して、以下のような権利制限を追加するものである。(赤字強調は私が付加したもの。なお、音楽についても同様の権利制限の追加が書かれている。そもそも言葉からして矛盾している気がするが、私的利用目的の侵害の場合の法定損害賠償額については、新第38.1条に書かれている。)

Reproduction onto Another Medium or Device
29.21 (1) It is not an infringement of copyright for an individual to reproduce a work or other subject-matter that is a photograph or is contained in a book, newspaper, periodical or videocassette, or any substantial part of such a work or other subject-matter, onto another medium or device, if the following conditions are met:

(a) the copy of the work or other subjectmatter of which the reproduction is made is not an infringing copy;
(b) the individual legally obtained the photograph, book, newspaper, periodical or videocassette, otherwise than by borrowing it or renting it, and owns the medium or device on which it is reproduced;
(c) the individual, in order to make the reproduction, did not circumvent a technological measure or cause one to be circumvented, within the meanings of the definitions “circumvent” and “technological measure” in section 41;
(d) the individual
(i) reproduces the work or other subjectmatter no more than once for each device that the individual owns, whether the reproduction is made directly onto the device or is made onto a medium that is to be used with the device, and
(ii) prints no more than one copy of the work, if the work is in digital form;
(e) the individual does not give the reproduction away; and
(f) the reproduction is used only for private purposes.

(2) If the individual has downloaded the work or other subject-matter from the Internet and is bound by a contract that governs the extent to which the individual may reproduce the work or other subject-matter, the contract prevails over subsection (1) to the extent of any inconsistency between them.

(3) Subsection (1) does not apply if the individual gives away, rents or sells the photograph, book, newspaper, periodical or videocassette without first destroying all reproductions of the work or other subject-matter that the individual has made under that subsection.

(4) Subsection (1) does not apply if the reproduction is made for the purpose of doing any of the following in relation to the work or other subject-matter:
(a) selling or renting out, or by way of trade exposing or offering for sale or rental;
(b) distributing, whether or not for the purpose of trade;
(c) communicating to the public by telecommunication;
or
(d) performing, or causing to be performed, in public.

他のメディアあるいはデバイスへの複製
第29.21条 (1)次の条件が満たされていれば、作品、あるいは、写真、新聞、雑誌、あるいはビデオカセットに含まれている他の対象物、あるいは、作品あるいは他の対象物の本質的な部分の、メディアあるいはデバイスへの個人的な複製は、著作権侵害を構成しない

(a)複製が作られる元の作品あるいは他の対象物の複製が侵害品でないこと
(b)複製する者が、貸し借りをせず、写真、本、雑誌やビデオカセットを合法に入手し、複製がなされるメディアあるいはデバイスを所有していること;
(c)「回避」と「技術的手段」を、第41条に定義されている意味のものとして、複製する者が、複製のために、技術的手段を回避していないこと、あるいは、技術的保護手段の回避をもたらさないこと
(d)複製する者が、
(i)複製が直接デバイスになされるか、デバイスと一緒に使われるメディアになされるかによらず、所有しているデバイスに、作品あるいは他の対象物を1度以上複製をせず、
(ii)もし、作品がデジタル形式の場合には、1部以上作品を印刷しないこと;
(e)複製する者が、複製物を他に与えないこと;そして
(f)複製物が個人的な目的のためのみに私用されること。

(2)複製をする者が作品あるいは他の対象物をインターネットからダウンロードし、その者がその作品あるいは他の対象物を複製可能な範囲を決める契約に縛られている場合は、契約は、その間の不一致によらず、(1)項を上書きする。

(3)まず最初に、この項の下に作られた作品あるいは他の対象物の複製を全て破棄せずに、複製をする者が、写真、本、新聞、雑誌、あるいはビデオカセットを他へ与え、貸し、あるいは売る場合には、(1)項は適用されない。

(4)作品あるいは他の対象物との関係で、次のようなことをする目的で複製がなされる場合には、(1)項は適用されない。
(a)販売、レンタル、あるいは商売のための展示や販売のための提供やレンタルのため;
(b)商売のためであるかどうかによらず、頒布のため;
(c)通信手段によって公衆に伝達するため;
(d)公衆の前で、実演するあるいは実演されるようにするため;

 いくら、法定賠償額が引き下げられたとはいえ、侵害品と知らずに複製していたとしても、あるいは知らずにDRM回避をしていたとしても、もし裁判になったら、200ドルという損害賠償を押しつけられるのは、ユーザーにとって不当なものとしか言いようがないだろうし、そもそも、ダウンロードユーザーや家庭内のDRM回避ユーザーに対しては、エンフォースや実効性の問題も大きい。

 これで、法改正の検討で混乱している日本に次いで、カナダもダウンロード違法化をしようと考えている国に名乗りを上げた訳だが、カナダにおけるネットの草の根の著作権法改正反対運動の大きさを考えても、この法案がそのまま通る可能性は低いだろう。ドイツの混乱を見ても、ダウンロード違法化は正しい選択肢とは到底思えないのである。

 政府が著作権保護強化を後押しし、権利者団体が歓迎し、ユーザー・消費者が反発するという構図は、今のところ、世界中のいろいろな国で大なり小なり見られるが、このような構図が見えること自体、時代の変化を感じさせるものである。著作権法はネット社会における基本的な法律の一つであり、権利保護強化だけを考えていれば良いものではないと皆が気づき始めている。カナダでは以前の著作権法改正はネットの草の根の運動で止まったし、今回のものも止まるだろう。ユーザーの声で、世界的にも流れは変わりつつあるし、流れは変えられるのだ。日本でも、著作権問題の火を消してはならない。

(6月17日夜の追記:相変わらずの内容なので一々突っ込む気にもならないが、権利者団体が懲りもせずに、メーカーに公開質問状を出している(AV watchの記事internet watchの記事ニュースリリース公開質問状本文)ので、念のためにリンクを張っておく。MIAUからも、ダビング10と補償金問題に関するアンケート結果発表されているが、各関係者の意識の隔たりが極めて大きいことがほぼ明白になっている今のタイミングで、なお消費者パッシング・メーカーバッシングの公開質問状を再度出すことに何の意味があるのか、権利者団体の神経は私には本当に理解できない。

 ソースは朝日なので、本当かどうか良く分からないが、現時点でHDD課金は見送るものの、ブルーレイ課金については文科省・経産省が合意したとする朝日のネット記事もあったので、念のために紹介しておく。この話が本当であるとして、ブルーレイ課金は現行のDVD課金の延長にある話なので、法律改正をしなくとも両省庁が合意すれば対象媒体・機器の追加は出来るものと思われるが、私的録音録画補償金制度のそもそもの意義が問われているところで、課金対象の拡大を利権官庁だけで合意しようとするのは本当にいかがなものかと思う。)

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