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2008年5月13日 (火)

第93回:知財本部・知財規制緩和調査会の資料の紹介

 知財本部のHPに、先週の金曜日(5月9日)に開催された2回目のデジタル・ネット時代における知財制度専門調査会の資料がアップされているので、今回は、その内容の紹介をする。(なお、最初の報道で使われていた分かりやすい仮称の方をタイトルには使ったが、正式名称はこの通り。)

 先週は、文化庁が極めて頭の悪いiPod課金提案を文化審議会でした所為か、こちらの検討に関することが、ネットも含めほとんど報道されていないのが残念でならないが、この調査会で検討している知財の規制緩和は、これからのインターネット時代・情報化社会において本当に重要なものである。

 その資料「デジタル・ネット時代における知財制度の在り方について」において、以下のような問題点をあげているのは、ほぼ今の状況における著作権法の問題を正しくとらえていると言って良い。

  1. 単一の利用方法を前提としており、ワンソース・マルチユースに対応していない。
  2. デジタル・ネット上の豊かな情報を活かした新しい利用方法に対応していない。
  3. 技術的過程に付随する行為の取扱いが明確ではない。
  4. 投稿サイトやブログなどで他人の創作物を相互に利用し合いながら創作するケースなどの新しい創作形態への対応が明確ではない。
  5. 新たな技術やビジネスモデルの出現に際して、柔軟に対応しうる規定がなく、新たな動きが萎縮しがちである。
  6. ネット上の違法な利用に対する対策が不十分である。

 ネット上の違法な利用に対する対策として、文化庁がバカ丸出しでごり押しすることを目論んだ(恐らく今も目論んでいる)ダウンロード違法化も書かれておらず、基本的には民間における各種対策の支援と、公正利用のための権利制限を設けるための法改正を出口にするなど、この資料は、細かなところで物足りないところはあるが、最近の日本政府から出された知財政策・著作権政策関連のものとしては、格段に公正で出来が良い。(文化庁がただひたすらひどすぎるだけなのだが。)

 一般的なフェアユース規定の導入などはまだ賛否両論あろうが、特に、上の資料の中に含まれているものの中でも、さらに「早急に対応すべき課題について」で、早急に対応すべきとされている、

  1. 検索サービスの適法化
  2. 通信過程における一時的蓄積の法的位置付けの明確化
  3. 研究開発における著作物の利用の円滑化
  4. コンピュータ・プログラムのリバース・エンジニアリングの適法化

の4点は、権利者の利益を害さず、著作物の通常の利用も害しない、公正利用の類型としてほぼ考えて良いものばかりで、今すぐに法改正してもらっても全く困らないどころか、是非法改正してもらいたいものばかりである。これらは、諸外国でも既に法改正などによって認められているものばかりであり、このような技術の進展によって新たに生まれた公正利用の類型に対して今まで権利制限が無かったことだけでも、日本の文化政策がいかに世界に遅れていたか分かろうというものである。自身と癒着した著作権関係団体の利益を最大化することだけを考え、全く権利者の害にならないにもかかわらず、今まで、このような全国民を裨益する権利制限すらさぼってきた文化庁の罪は極めて重い。(なお、もし各国の権利制限規定について興味があれば、是非過去のエントリもご覧頂きたい。)

 報道などがなく、検討会で各委員から、どのような発言がなされたのか分からないのは残念だが、この資料を見る限り、この知財本部の規制緩和の検討は地道に進んでいるようであり、知財計画2008にも反映されるだろう。規制緩和の初志を改正法案の成立まで貫徹してもらわなければ何の意味もないが、著作権関係団体に法改正でにらみを効かせ天下り利権を保持・拡大しようとする文化庁が、下心丸出しで提案する、ダウンロード違法化やiPod課金のようなバカげた利権・既得権益拡大のみを発生させる著作権法改悪案など全て吹き飛ばして、次回の著作権法改正においては、政府には是非、この資料であげられているような本当の規制緩和のみの、著作物の公正な利用のための権利制限の追加のみの法改正をやってもらいたいというのが、私の一国民としての切なる願いである。もはや文化の敵と化した文化庁が抵抗勢力となり、猿も騙せないような論理で子どものようにだだをこねるかも知れないが、このような知財の規制緩和は、文化的にも経済的にも全国民を裨益するものとなると私は確信している。

 なお、第1回(4月24日)の議事録も同時に公開されているので、一緒にリンクを張っておく。この議事録もなかなか面白いのだが、その中でも、日本一の知財法学者と名高い中山信弘先生の発言はここに引用しておきたい。著作権法がビジネスの阻害要因となっており国益を阻害していると、著作権は人工的な権利であって時代によって調整機能が変わってくると、日本の著作権法関係者の条約観はおかしいのではないかと、知財法の泰斗が発言していることは重い。文化庁などで自身の利権確保のためのごまかしに良く使われる、ベルヌ条約に関する意味不明の解釈論や、複製権を絶対不可侵のものとする理解不能の著作権神授説などは本当に日本政府のあらゆる検討から根こそぎにしてもらいたいと私は思う。特定省庁・特定団体の利権のために、国益が損なわれることなど本来あってはならないことなのだから。(なお、以下は抜粋なので、他の発言も含め、中山先生の発言の全文は是非リンク先からご確認頂ければと思う。)

○中山会長 司会が言っていいかどうかわかりませんけれども、私が見るところでは、著作権法というのはかなりビジネスロー化していると思います。難しいのは、完全にビジネスローだと言ってしまえば話は簡単で、それなりにやりようはあるのですけれども、従来型の創作形態、従来型の利用形態・流通形態も健在である、つまり両者が混在しているというところが問題を複雑化していると思います。
 しかしながら、ビジネス化しているというこの状況を無視することはできないと思っております。つまり、著作権法があるからこのビジネスはやってはいけないという、そういうものが余りに多いと、これは日本の国益に反する。

(中略)

 憲法とか自然権とか言い出しても、大きな意味はないと思います。私は著作権というのは非常に人工的な権利であって、時代時代によって調整機能が変わってくる。インターネットがある時代とない時代では全然違う、では今はどうかということを議論してもらえればよろしいのではないかというふうに思います。

(中略)

 それから、もう1点だけ言いたいのは、条約についてです。著作権法の改正をしようとすると、すぐに条約という問題に絡んできます。ベルヌ条約というのは実体的な規定をたくさん持っていますから、条約に違反することはできないので、これは非常に大きな問題だろうと思います。
 私は国際法の専門家ではないのでよくはわかりませんけれども、どうも日本の著作権法の関係者の条約観というものはちょっとおかしいのではないかという気持ちはしております。つまり、条約というものと国内法というものを同じような方法論で解釈しているのではないかと思います。日本は憲法でもって条約優位、つまり法律より条約が無条件で優位になっています。あまりこのような国はないんではないかと思うんですけれども、とにかくそういう憲法があるので、そのせいかもしれませんけれども、しかし、条約は国内法とは全然枠組みが違う、なぜならばエンフォースメントが違うからだと思っております。著作権問題はWTOのTRIPS協定に入っているわけですけれども、ではWTOを各国が一体どのような態度で臨んでいるのか、つまりどの程度真剣に守る気があるのか、という問題になってくるわけです。
 日本で言えば、WTOでいえば、例えば、ウイスキーと焼酎では商品が異なるので税率が違うのは条約違反ではないと主張しましたが、負けたわけです。それからすれば、ビールと発泡酒で税率に差を設けることなどはWTO上は真っ黒(違反)ですね。しかし、世界じゅうのどこの国も文句を言わない、文句がなければ何の問題もない。文句を言ってきたら、それでWTOのパネルで争って負ければアピールすればよい、さらにそこで争って負けたら、始めて料率を変えればいいし、あるいはもっとひどいことを言えば、負けたって制裁を受ける覚悟でそのとおりで通してしまえばいい。アメリカのバード修正条項などはまさにその例ですね。あまり好ましいこととは思えませんが、制裁よりもその法律が国益にかなうとすれば、あえて制裁を選ぶという道もありうる。わが国も、ILOの勧告などは真剣に守る気はないようですね。条約といっても、すべての条約のすべての条項につき、同じであるとはいえませんが、条約とはそういうものだと思うんですけれども、どうもこれを国内法と同じように絶対化して理解をしているように思えます。

(後略)

 次回は、またB-CAS関連についてか、あるいは、この知財本部資料であげられている著作物の公正利用の類型の細かな論点について書いてみたいと思っている。

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