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2008年5月27日 (火)

第97回:ドイツの知財法改正(プロバイダー責任制限・コスト付加型の情報開示手続の整備)

 第88回でも触れたが、この5月23日に、ドイツで、知財法改正案が連邦参議院も通過して成立したとのニュースがあった(heise onlineの記事Computer Betrugの記事luebeck onlineの記事dradioの記事参照)ので、今回はこの法改正についてもう少し詳しく紹介しておく。

 上のドイツ語の記事にも紹介されているが、改正法案のポイントは、要するに、

  • 権利者は侵害者にまず警告を行い、示談による解決のチャンスを与える。
  • 非商用規模の権利侵害への警告で要求できる弁護士費用の上限は100ユーロ。
  • 通信データの開示は裁判所が決定。開示請求費用は権利者が負担。

ということである。さらに、著作権法の改正部分から、対応する条文も訳しておくと、

§ 97a Abmahnung
(1) Der Verletzte soll den Verletzer vor Einleitung eines gerichtlichen Verfahrens auf Unterlassung abmahnen und ihm Gelegenheit geben, den Streit durch Abgabe einer mit einer angemessenen Vertragsstrafe bewehrten Unterlassungsverpflichtung beizulegen. Soweit die Abmahnung berechtigt ist, kann der Ersatz der erforderlichen Aufwendungen verlangt werden.

(2) Der Ersatz der erforderlichen Aufwendungen fur die Inanspruchnahme anwaltlicher Dienstleistungen fur die erstmalige Abmahnung beschrankt sich in einfach gelagerten Fallen mit einer nur unerheblichen Rechtsverletzung auserhalb des geschaftlichen Verkehrs auf 100 Euro.
...

§ 101 Anspruch auf Auskunft
...
(9) Kann die Auskunft nur unter Verwendung von Verkehrsdaten (§ 3 Nr. 30 des Telekommunikationsgesetzes) erteilt werden, ist fur ihre Erteilung eine vorherige richterliche Anordnung uber die Zulassigkeit der Verwendung der Verkehrsdaten erforderlich, die von dem Verletzten zu beantragen ist. Fur den Erlass dieser Anordnung ist das Landgericht, in dessen Bezirk der zur Auskunft Verpflichtete seinen Wohnsitz, seinen Sitz oder eine Niederlassung hat, ohne Rucksicht auf den Streitwert ausschlieslich zustandig. Die Entscheidung trifft die Zivilkammer. Fur das Verfahren gelten die Vorschriften des Gesetzes uber die Angelegenheiten der freiwilligen Gerichtsbarkeit mit Ausnahme des § 28 Abs. 2 und 3 entsprechend. Die Kosten der richterlichen Anordnung tragt der Verletzte. Gegen die Entscheidung des Landgerichts ist die sofortige Beschwerde zum Oberlandesgericht statthaft. Sie kann nur darauf gestutzt werden, dass die Entscheidung auf einer Verletzung des Rechts beruht. Die Entscheidung des Oberlandesgerichts ist unanfechtbar. Die Vorschriften zum Schutz personenbezogener Daten bleiben im Ubrigen unberuhrt.
...

第97a条 警告
第1項 侵害を受けた者は、不作為に関する裁判手続の開始前に、侵害者に警告を行い、適切な示談金により賠償責任を果たす契約で争いを解決する機会を与えなくてはならない。

第2項 最初の警告のために利用される弁護士サービスにかかった費用の請求は、簡単なケースで、商用規模ではない些細な権利侵害については、100ユーロをその上限とする。
(中略)

第101条 情報開示請求
(中略)
第9項 通信データ(通信法の第3条第30項で定められている)の利用について情報開示が認められ得る、ただし、これが認められるためには、前もって、通信データの利用が、被害を受けた者によって求められ、これを許可する裁判所の命令が必要である。この命令の発令については、被害額によらず、情報開示の義務を負う者の本住所、本社あるいは支店がある地区の地方裁判所が排他的に管轄権を有する。民事部が決定を出す。その手続には、第28条第2項と第3項の例外も含め、裁判法の規則が適用される。裁判所の命令の費用は被害を受けた者が負担する。地裁の決定に対しては、ただちに高等裁判所へ控訴することが許される。しかし、それは、地方裁判所の決定に法律違反が含まれている場合にのみ、そのことに基づいてなされ得るものである。高等裁判所の決定に対して異議を唱えることはできない。個人情報保護に関する規則が、その他の点で、影響を受けることはない。
(後略)

(訳注:ドイツの通信法の第3条第30項で、通信データは、通信事業者の提出によって、収集・処理・利用されることになるデータと定義されている。裁判法の第28条第2項と第3項では、上告の例外を定めている。)

となる。

 このドイツの法改正の背景事情は、第88回でも書いたが、この2008年1月からこのダウンロード違法化の実運用が始まったにもかかわらず、3月11日にドイツの憲法裁判所で、インターネットの通信ログの開示は、殺人やテロ、汚職などの重大な刑事事件において公的機関に認められるだけであるという判決が出され、刑事告訴によってIPアドレスからユーザーを突き止め、それから民事訴訟で損害賠償請求を行うということがほぼ不可能となったため、このような民事でのプロバイダー責任制限・コスト付加型の情報開示手続をあわてて整備せざるを得なくなったというお粗末なものである。(このような情報開示手続がドイツで今になって始めて作られたということは、ドイツ語の記事にも書かれている。)

 今までのデタラメな法制で刑事告訴の乱発を招いたことから、今回の法改正では、さしものドイツも、情報開示請求の費用を権利者負担とし、最初の警告書で要求できる弁護士費用を100ユーロに制限するなど、それなりにユーザー保護も考えたようである。刑事告訴の道は閉ざされたし、裁判所に情報開示命令を出してもらうのにもそれなりのコストがかかるだろう。100ユーロまでしか手続費用をユーザーに請求できないというのでは、悪質なケースを除き、普通にネットを使っているだけの単なるダウンロードユーザーまで警告や告訴に巻き込まれるということはおよそ無くなるに違いない。(実際どうなるかは、実運用の開始まで待たないと分からないが。)

 文化庁はいつもドイツでダウンロードが違法化されたことだけを強調するのだが、他の情報も含めて考えれば、どこをどう見ても、インターネット時代の知財法の検討において、ドイツは全く手本にならないどころか、率先して悪例を示してくれている反面教師としか思われない。著作権法だけを見て、権利者の保護強化を図れば良かった古き良き時代はもはや終わったのである。インターネット時代の著作権法では、通信の秘密など他の基本的な権利とのバランスが常に考慮されなくてはならないのだ。著作権戦争に終わりは見えないが、日本がドイツの二の轍を踏まないことを私は切に願っている。

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