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2008年4月27日 (日)

第88回:ニュージーランドとドイツの知財法改正案

 第84回のついでに、ニュージーランドで著作権法改正案が通ったという話を少しだけ紹介したが、念のため、もう少し詳しく紹介しておこう。また、ドイツでも知財法改正の動きがあるので、これも一緒に紹介する。Zeropaidの記事でも、これらの法改正の動きを一緒に取り上げているので、こちらを読んで頂いても構わない。(ただ、ニュージーランドとドイツの法改正の動きの背景につながりはないように私は思う。)

(1)ニュージーランド
 ニュージーランドの著作権法改正条文現行条文)には以下のようなことが含まれている。(他にも多くのことが含まれているので、本当に詳しいことは原文に当たって頂ければと思う。)

 その新80A条では、プログラムの逆コンパイルを権利制限の対象として付け加えている。独立したプログラムを作るために必要な情報を得る場合は、逆コンパイルは著作権侵害とは見なされないという規定である。逆コンパイルは、日本の著作権法でも厄介な問題だが、プログラム開発におけるその必要性を考えると、日本でもこのような権利制限を明確に設けることを考えても良いだろう。

 また、新81A条では、私的利用目的のための録音を明確に権利制限の対象としている。ただし、借りたものなどではなく、合法に入手した録音物からの複製であって、本人あるいは同じところに住む家族のための複製に限られると、日本より要件は厳密である。複製物は、元の所有者が持っていなければならないといったダメ押しの規定まである。

 新82~83条で、放送などについて、その基準のチェックや責任機関へ文句を言うための複製を権利制限の対象としているのも面白いが、第84条では、放送などのタイムシフトのための私的複製を明確に権利制限の対象としている。ただし、このタイムシフトの規定は、条文上、より便利な時間に見るために必要となる合理的な期間より長く保持している場合は適用されないともされている。

 これらの私的複製規定の充実にもかかわらず、ニュージーランドでは同時に補償金制度が導入されなかったということはもう一度強調しておく。常に「複製=対価」ではあり得ないし、完全に家庭内に閉じる私的複製についてまで、国際的に見て補償が必要とされているなどということも、文化庁が一方的に国民に押しつけようとしているデタラメの一つに過ぎない。

 さらに、このニュージーランドの新著作権法では、インターネットサービスプロバイダー(ISP)の責任とその制限についても規定しており、新92A条では、繰り返し侵害を行う者に対してアカウント停止を行うなどの適切なポリシーをISPは採用しなければならないとしている。

 また、第92B条で、単に侵害者がそのサービスを使ったというだけではISPは責任を問われないとしているが、第92C条で、著作権侵害の存在を知ったときは、すぐにそのデータを削除しない限り責任が出てくるということになる。また、削除するときには、ISPはすぐにユーザーにノーティスを送らなければならないといったことも書かれている。

 権利者からの著作権侵害ノーティスについても、第92CA条で記載要件が定められ、第92C条第2A項でこのノーティスを受け取ったかどうかも含め、裁判所が、ISPが著作権侵害があることを知っていたと考えられるかどうかを判断するということが規定されている。なお、著作権者と偽る行為も第112A条で規制の対象とされている。

 また、第92D条では、ISPによる単なるキャッシングは著作権侵害ではないとしているが、ただし、オリジナルが消されたことなどに気づいてもなおキャッシュを消さなかった場合は著作権侵害となることを定めている。

 読んでもらえれば分かると思うが、これらの規定は、かなりISPに対して厳しい。ISPにおける著作権侵害の判断の実運用は相当難しいのではないかと思われるし、アカウント停止などもこれがインターネットへの完全なアクセス停止を意味するとしたら、決して取られるべき措置ではないだろう。

 また、新226条以下で、技術的保護手段、いわゆるDRM回避規制を定めているが、ここで規制されているのは、DRM回避デバイスの製造・販売・貸与等のみ、DRM回避サービスの提供のみで、当然のことながら、DRM回避デバイスの所持や使用、DRM回避行為そのものは禁止されていない。DRMを回避して行う複製が私的複製でないとしていることもない。DRM回避機器・プログラムの所持や使用、DRM回避行為そのものを規制しようとするのはどう考えてもおかしい話である。

 このニュージーランドの新著作権法は、私的複製を充実させ、DRM回避規制も、その回避デバイスの製造等のみを規制し、私的領域に踏み込まないようにしているなど、全体的に見れば悪いということはないが、ISPに対してだけはかなり厳しいように思う。

(2)ドイツ
 ドイツでは、知財法の改正案が連邦議会を通過し、連邦参議院に送られているようである(tonspionの記事tariftipの記事)。

 ダウンロード違法化を世界に先駆けて行うなど、著作権法の世界で非道の限りを尽くし、社会的混乱を招いていたドイツだが、第80回でも書いたように、この3月11日に、憲法裁判所で、インターネットの通信ログの開示は、殺人やテロ、汚職などの重大な刑事事件において公的機関に認められるだけであるという判決が出されたことを受け、要するに、刑事告訴を通じてユーザーの情報開示をさせるという手が使えなくなったので、今になってISPにIPアドレスから、ユーザー情報を開示させる民事的な手続きを用意せざるを得なくなったようである。

 記事によると、このユーザー情報の開示を決めるのは裁判所で、しかも、開示されるのは、その著作権侵害行為が私的な範囲を超え、商業的なレベルのものであると裁判所が判断した場合に限られるとするようである。

 そして、この裁判所への申請費用は200ユーロとされ、開示を受けた後の最初の著作権侵害警告で要求できる弁護士費用の上限は100ユーロとされるようであり、無料の刑事告訴(要するに税金でまかなわれる)とは異なり、申請・警告の乱発を防ぐためのコストの概念も導入されるようである。

 実際まだ通った訳ではないが、 このような法案から見る限り、ドイツの方針転換は明らかだろう。ドイツのダウンロード違法化も結局、刑事告訴の乱発から社会的混乱を招き、憲法裁判所によってその手続きを否定され、プロバイダー責任制限・コスト付加型の民事的な情報開示手続きを整備せざるを得なくなるという結果に落ち着きつつある。アップロードも含めて行っているP2Pユーザーなど本当のアップロードユーザーに対してはどうだか分からないが、このような法案は、私的範囲に閉じる複製しかしていない単なるダウンロードユーザーに対しては権利行使をするのは間違っているということを認めるに等しいものである。

 このドイツの法案は、来月ドイツ連邦参議院で審議されるようなので、もし成立したら、また詳細を紹介したいと思う。

 最後に、ここ最近の知財政策関係のニュース記事の紹介もしておこう。

 まず、知財本部では、この4月24日に、「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」の第1回が開催された(ITproの記事マイコミニュースの記事)。具体的な検討はこれからになるだろうが、その資料を読んでも、デジタル化時代の公正利用のための権利制限の話が多く載っており、ここでの検討は、政府の知財規制緩和にかける意気込みを見る試金石となるだろう。何度も繰り返すが、本当の問題は、既存コンテンツのネットにおける正規流通が進んでいないことにあるのではなく、今の著作権法がネットによって新たに生まれた公正利用の類型に対応できておらず、このような利用まで萎縮させてしまっていることにあるのだ。(その参考資料には、主要各国の権利制限の一覧も示されている。少し元の翻訳資料が古いものも含まれているが、このような一覧を見ただけで、いかに今まで文化庁が権利制限をさぼっていたかが分かるだろう。文化庁は抵抗するかも知れないが、文化庁の検討会でも、この資料を使ってはどうかと思う。)

 また、総務省の違法・有害情報対策検討会では、4月25日に中間取りまとめ案が提示されたようである(internet watchの記事マイコミニュースの記事毎日のネット記事)。携帯コンテンツを審査する第3者機関に国は原則不介入ということを取りまとめには明記するそうだが、この「原則」という文字が、この第3者機関を天下り先にするのは構わないと聞こえるのは私だけだろうか。最終的に、利用者側の選択肢さえ確保されていれば良いのだが、いまいちその方向性は良く分からない。あの奇妙なフィルタリング強要大臣要請そのものの是非も含め、パブコメにかけられたときには、この検討会の取りまとめに関してもいろいろ書くことが出てくるに違いない。

 次回は、審議会システムについて書きたいと思っている。

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