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2008年4月15日 (火)

第85回:イタリア著作権法の私的複製関連規定

 文化庁で、「ヨーロッパにおける著作権侵害対策ハンドブック(イタリア共和国編)」がまとめられたというニュース(本文Markezineの記事)があったので、この機会に、2003年の改正と、この2008年1月の改正によって拡充されているものも含めて、現行のイタリアの権利制限規定について、ここでその簡単な紹介をしておきたいと思う。

 イタリア著作権法の現行条文イタリア著作者出版者協会が提供しているpdf版)でも、第65条の時事ニュースの利用、第66条の政治・行政上の演説の利用、第67条の立法・司法・行政手続における著作物の利用、第68条の基本的な私的複製や図書館での複写、第69条の文化振興・研究目的での資料の貸与、第70条の引用など、第71条の軍楽隊での利用の権利制限などについては、2001年改正当時とあまり違いはなく、著作権情報センターで見られる当時の翻訳をご覧頂ければと思う。

 これらに加えて、第56回で少し紹介したことだが、この1月に次のような重要な改正がされたことは特に注目に値するので、ここにもその訳文を再掲する。このような権利制限によって、教育研究目的で劣化版との限定はかかるものの、イタリアでのネットワークを通じた著作物の利用の自由度はかなり上がることだろう。

70. 1-bis E'consentita la libera pubblicazione attraverso la rete internet, a titolo gratuito, di immagini e musiche a bassa risoluzione o degradate, per uso didattico o scientifico e solo nel caso in cui tale utilizzo non sia a scopo di lucro. Con decreto del Ministro per i beni e le attivita culturali, sentiti il Ministro della pubblica istruzione e il Ministro dell'universita e della ricerca, previo parere delle Comissioni parlamentari competenti, sono definiti i limiti all'uso didattico di cui al presente comma.

第70条第1の2項 そして、その利用が営利のためになされるものでない場合に限り、研究あるいは教育のために、解像度を下げられた、あるいは質を下げた、画像と音楽は、無償で、インターネット網で自由に公開することが認められる。この項に記載された教育目的の利用は、公教育大臣と高等教育大臣の意見を聞き、あらかじめ国会の管轄委員会の意見を受けてから、文化活動・文化財大臣の命令によって定められ、制限される。

(イタリアでは、この部分の詳細を定めるための大臣令について、かなり開明的な提案が法学者からなされていることは、第70回のついでに少し書いたが、この大臣令についてまた分かったことがあれば書きたいと思う。)

 さらに、2003年の改正で追加された、第71条の2~10についても概略を紹介して行くと、まず、第72条の2で障害者の私的利用のための複製に関する権利制限が拡充されており、このような拡充が、前回に少し紹介したように、視聴覚障害者のために著作物の大規模なデジタル化を可能とする大臣令につながっているものと思われる。

 第71条の3では、研究目的で、図書館や博物館におかれる端末で、そのコレクションを利用するための権利制限が、第71条の4では、公共の病院や刑務所でなされる放送のための複製に関する権利制限が規定されている。

 また、第71条の5では、公安あるいは立法・司法・行政の正しい手続きのために、権利者はDRM解除をしなければならないこととされている。さらには、第71条の5の第2項では、権利者は、受益者の求めに応じて、私的複製などの各種権利制限の実行を可能とするために、権利者に、受益者代表団体との取り決めの締結も含め、適切な解決策を取らなければならないともされている。私的複製も含め、権利制限についてこのような強行規定に近い条項が含まれていることは、注目に値するだろう。

 第71条の6から8にかけて、私的録音録画とDRMの関係と、私的録音録画補償金とが規定されている。これらは少しややこしいのでまた回を分けて、別途翻訳つきで紹介したいと思うが、基本的には、第71条の6で、第3者の手によってなされる場合を除き、私的録音録画が認められるとした上で、第71条の7~8で、権利者にこの私的録音録画に対する補償金請求権が認められることと、イタリア著作者出版者教会がその徴収と分配に当たることが規定されている。

 最後に、第71条の9で、著作物の通常の利用を害さず、著作者の正当な利益を害しないことという、お決まりの逆制限がかかっている。文化庁はこのようなベルヌ条約のスリーステップテストをそのまま書いた逆制限を必ずダウンロード違法化と結びつけるが、このような逆制限と明確なダウンロード違法化とは直接結びつくものではない。イタリアでも、明確なダウンロード違法化はなされていないし、ダウンロード違法化が検討されるという話も聞こえて来ない

 権利制限について海賊版対策マニュアルに事細かに書く必要は全くないはずだが、このような地道なマニュアル作りにおいてすら、権利制限に否定的な見解ばかりを載せ、ヨーロッパのほとんどの国で著作権侵害罪が非親告罪であることなどを強調しながら、その見解の主語をわざと曖昧にして印象操作を行うなど、文化庁のバランス感覚の欠如は本当に救いがたいものがある。(第17ページで、著作権を著作者の創作行為から生じる絶対的な権利であると理解するようになると何の根拠もなく断定していたり、第28ページで、判例がどのレベルでどのような内容であるかについて触れずに、補償金制度に関する憲法上の疑義を否定した判例があることや、イタリアではパロディの権利制限がないことをわざわざ強調してみたりするなど、突っ込みどころは満載だが、いちいち突っ込んで行くことはバカバカしいし、意味もないのでしない。)

 文化庁が、今後の私的録音録画小委員会や、法制問題小委員会(次回は4月24日に開催されると案内が出ているが、そこでも私的複製を議論するらしい。)で、国際動向についてロクでもないことを言ってくることは目に見えているが、イタリアの最近の法改正だけを見ても、ヨーロッパでも知財の保護強化だけをやっている訳ではないことは明らかだと今一度繰り返しておく。インターネットで少し検索すれば誰でも分かることでごまかされる国民などもはやいないのだ。

 また、フランスでは、第61回で書いたように、案の定iPhoneに補償金が賦課されることが決定され、5月1日から徴収されることとなったようだ(Nouvel Obs.comの記事参照)が、第63回で紹介したように、EUレベルでも今年、私的複製補償金問題の検討をするとしており、第45回でも少し紹介したように、フランスでも小売業界や消費者団体から行政裁判所に訴訟が提起されている(PCINPACTの記事参照)ことに加え、さらにフランソワ・フィロン首相がエリック・ベッソンデジタル経済大臣への書簡で、「私的複製補償金に関する決定様式は、これを客観的で透明な手続きとするために調査されるに値する。この分野における提案をあなたがこの秋までにすることを私は求める。」と述べる(Numeramaの記事PCINPACTの記事参照。裏を返せば、この手紙は、今の決定様式は透明でも客観的でもないということを暗に言っているに等しい。)など、フランスでも補償金問題の収束の気配は全くない。また、フランスの著作権検閲型の違法コピー対策についてもさらにややこしいことになっており(numeramaの記事参照)、今後どうなるかはさっぱり読めないが、第83回でも取り上げた、EU議会によるフランスの違法コピー対策の否定決議のことを考えても、どこかで止まるのではないかと私は考えている。

 特許関係の政策ネタについても、機会があれば、まとめてどこかで書きたいと思っているが、特許法の改正が参議院で通ったというニュース(時事通信のネット記事)があったので、念のため、これもリンクを張っておこう。

 次回は、少しまたB-CASの話を書いてみたいと思っている。

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