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2008年4月29日 (火)

第89回:日本の奇怪な審議会(有識者会議)システム

 日々、知財政策関連の動きをフォローしていて、日本の審議会システムほど奇怪なものもないとつくづく思う。とにかく、内閣からも法案が提出できるのを良いことに、行政の審議会という名の有識者会議で、行政判断はおろか、立法判断まで示され、かつ、放っておくとそれがそのまま法律になったりするので、油断も隙もあったものではないのだ。
 
 知財関係に限っても、著作権法関連では、文部科学省(文化庁)の文化審議会著作権分科会に、

・法制問題小委員会
・私的録音録画小委員会
・過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会

の3つの小委員会があり、特許・意匠・商標・不正競争防止法関連では、経産省(特許庁)の産業構造審議会知的財産政策部会に、

・特許制度小委員会
・商標制度小委員会
・意匠制度小委員会
・技術情報の保護等の在り方に関する小委員会

と4つの小委員会があり、さら情報通信法、コピーワンス問題や地上デジタル放送問題については、総務省の情報通信審議会に、

通信・放送の総合的な法体系に関する検討委員会
デジタルコンテンツの流通の促進等に関する検討委員会
地上デジタル放送推進に関する検討委員会

があり、さらにダメ押しのような形で、内閣官房に、知的財産戦略本部が設けられ、そこで、

・デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会
・コンテンツ・日本ブランド専門調査会
・有識者本部員会合

などが設けられていると言う状態である(さらにワーキンググループとかワーキングチームとか称してさらに小さな検討会が作られたりもする)。このような2重3重の多重検討は、ほとんどわざと検討を分かりにくくして国民に対して嫌がらせをしているとしか思えない。しかも、協力すると見せかけて仲が悪いのは役所の常で、全部微妙に違うことを言うという念の入れようである。

 これらの審議会あるいは本部には根拠法があり、例えば、文化審議会については、文部科学省設置法で、

(文化審議会)
第30条  文化審議会は、次に掲げる事務をつかさどる。
1  文部科学大臣又は文化庁長官の諮問に応じて文化の振興及び国際文化交流の振興(学術及びスポーツの振興に係るものを除く。)に関する重要事項(第三号に規定するものを除く。)を調査審議すること。
2  前号に規定する重要事項に関し、文部科学大臣又は文化庁長官に意見を述べること。

と規定されているが、行政の権限を考えると当たり前の話で、無論、どこの審議会であれ、審議会で決定された方針を元に法改正案を役所が国会に提出することと法律に書かれているなどということは全くない。(なお、コピーワンス問題は多少異なり、法改正の問題ではなく、完全な民々規制問題で、総務省なり情報通信審議会なりにその変更を決定する権限が全くないことがその隠された問題点の一つであるため、運用開始が延期(日経トレンディネットの記事参照)になるのも無理はない話である。だからこそ、本当に必要なのはノンスクランブル・コピーフリーを放送局にエンフォースする逆法規制であると私は考えているのだ。また、知財本部の根拠は、知的財産基本法である。)

 このような根拠法のある審議会とは別に、各省は何故か勝手に懇談会とか研究会とか称して検討会を開けることになっており、このような研究会の例としては、ネット関連で、総務省の、

インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会
インターネット政策懇談会(いわゆるネットワークの中立性の話を検討している)

や、警察庁の

総合セキュリティ対策会議

もある。さらには、関係省庁の連絡会議と称して、内閣官房にIT安心会議などといった何をしているんだか良く分からない会議まで設けられている。(これとは別にIT基本法を根拠とするIT戦略本部もある。)

 昔の中央省庁改革当時の方針を見ても、懇談会で聴取した意見については、答申、意見書等合議体としての結論と受け取られるような呼称を付さないとしているが、守られているのは名称だけであり、別に根拠法のある審議会でないからといって、法改正の検討・事実上の決定がされない訳ではないということは、警察庁の出会い系サイト等に係る児童の犯罪被害防止研究会で出会い系サイト規制法の強化が検討され、かつ閣議決定までされたことを見ても分かることである。この出会い系サイト規制強化法の問題点は第50回で指摘した通りだが、この法案は今衆議院を通過して参議院に回されている。)

 国民に対する嫌がらせとしか思えないデタラメな状況だが、このような審議会という名の有識者会議システムこそ、行政・立法・司法の役割分担を曖昧にし、官僚の無責任な政策決定を許す今の日本システムの核心である。とにかく、とにかく各省庁の所管法令の改正が内閣立法によってなされなければならない理由は何もないのだが、各省庁とも自分の所管法令の改正権限は自分にあるとばかりに、国民の目が届かないのを良いことに好き勝手をやろうとしてくるのだ。特に、文化庁や総務省、警察庁の検討を見ているだけでも分かるし、書いていてバカバカしくも思うのだが、審議会のメンバーの人選や議事・ペーパー・日程はほぼ役所が決められることを利用して、自分たちに都合良く審議を誘導するために役人たちが使ってくる手口は、以下のようなものがある。(見事にまとめておられるので、その快著「さらば財務省!」で、高橋洋一氏が書いている手口をほぼそのまま箇条書きにさせてもらった。)

・役所と反対の意見を持つ者はなるべく始めから外す。

・審議会が開かれる前にあらかじめ説明を行い、委員の発言を思惑通りに誘導する。

・役所に都合の悪い論点は議論のためのペーパーからわざと落とす。

・委員自らまとめてきたペーパーは、役所に都合の良いように書き直す。

・反対意見を持つ委員が来られない日に審議会をわざと設定する。

・意に反する結論が出そうになると、「結論が出なかった」として結論そのものを潰す。

・人数を水増しして一人あたりの発言時間を少なくし、委員が実質的なことを何も言えないようにする。

・結論がまとまらなければ、座長一任という形にして、役所が結論をまとめる。

・結論を出したくないときは、議題をわざと沢山上げて、議論をかき回す。

 さらに、役人どもはこのような審議会における事務局権限(「庶務権」というらしい。)に加えて、

・自分たちに都合の良いように情報をリークして、マスコミに報道させ、既成事実として政策を誘導する。

・新任大臣にはあらかじめ発言してはいけないことを説明して、役所の意図とは異なる発言をしないようにさせる。

というようなことまで駆使して、自分たちに都合の良い政策を実現しようとして来る。このような手口を使って不合理を無理に押し通すには相当のコストがかかっていはずだが、それだけのコストをかけて役人どもが必死に守ろうとしているのが、国益でも何でもなく、単なる天下り利権なのだから、私は日本の未来に暗雲が立ちこめるのを見る思いがするのだ。まがりなりにも難しい試験を通ったのであろうそれなりに優秀な人材のコストが、次官を頂点とする不合理な天下りシステムの中で、このような非創造的な仕事に使われ、ドブに捨てられているのは本当に日本の損失としか言いようがない

 文化庁や総務省、警察庁の検討を見るにつけ、このような審議会システムは極めて問題が大きいと思うのだが、これに代わるシステムがまだ作られていないこともあり、今も全ての官庁で惰性で続けられているのである。最終的には、我々の1票が真に立法に反映されるよう、我々も意識を改め、大局的な観点から合理的な立法判断をできる人間を国会議員として送り込んだ上で、立法権限を国会に集中して行かなければならないと思うが、今でもできることは何でもしておきたいと思う。

 マスコミも役所とぐるなので、マスコミの報道を見ても、役所が考えていることの裏は分からない。資料のネット公開をわざと遅らせることなども役所の手のうちなので、本当にタチが悪いが、ネットの存在によって透明性があがったおかげで、役所も昔ほど極悪非道をやりづらくなっているのは確かだろうし、この透明性向上の流れを止めてはならない。国民の目が注がれていることを示すことが第一である。パブコメも提出できる限り提出しよう。特定業界と癒着した天下り役人が押し進めようとする規制など、不合理なものは不合理、有害無益なものは有害無益と、私は言い続けよう。

 今の日本システムを変えられるかどうかは、国民一人一人の意識にかかっている。もし、このブログなりを読んで政策関連のことに関心を持った方がいれば、是非、自ら今の日本の政策について調べてみてもらいたい。調べれば調べるほど役人の傍若無人ぶりに言いたいことが出てくるに違いないのだ。(別に知財政策・情報政策に限らず、年金だろうが、道路だろうが、役人のやっていることは一緒であり、各省庁の審議会を追っていけばそれなりのことは分かる。)

(なお、この25日に、「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」の中間とりまとめが公表(公開資料概要本文)され、携帯フィルタリングについてもブラックリスト方式を原則とするよう大臣要請が上書きされたので、ここで突っ込んでおく。特に法規制の方針を出しておらずフィルタリング解除の第3者機関についても、行政は関与すべきではなく、複数の第3者機関が基準を提示することにより、様々な価値観を併存させることで、利用者の選択肢を増やすことにつながることが望ましいとしているのは良いのだが、その注釈で、前段階での作業を担うことや、第三者機関の財政的基盤を支えることなどの行政関与はむしろ必要と書いているなど、全く油断はできない。総務省のことだから、放っておくと、税金の投入などを口実にこの第3者機関を天下り先にしてくるだろう。最終報告までのパブコメでは、第3者機関を絶対に天下り先としないと明記するよう求めたいと私は思う。ブラックリスト方式のフィルタリングも消費者に選択肢として与えられる分には別に構わないが、この中間取りまとめ中で、第3者機関への申請者に審査料負担が求められるとしているとしているのもそんな単純に決めて良いことではない。フィルタリングのコスト負担の問題も考え出すと実に難しい話である。)

 正直なところ、良く分からないところも多いのだが、議員立法も最近騒動の種になっているので、次回は、国会法の話を書きたいと思っている。

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