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2008年3月21日 (金)

番外その9:身近な知財問題3題(mixi規約改定騒動、初音ミク騒動、ウィルス作成者別件逮捕事件)

 このブログはあまり個別の事件については、取り上げないようにしているのだが、あまり抽象的に過ぎても分かりにくいだろうし、個別の事件について書くことも、また誰かがパブコメなりを書くときの参考になるかも知れない。今回も番外として、最近の各種事件について、私なりの考えをまとめて書いておきたいと思う。

(1)mixi規約改定騒動
 最初に、一番最近のSNSサービスmixiの規約改定騒動についてである。これは、ソーシャルネットワークサービス最大手のmixiが、規約を改定しようとしたところ、その改訂規約案の中にユーザーの日記等についてmixiに非独占的にほぼあらゆる形態での2次利用を許諾する条項と人格権不行使条項が含まれていたために、ユーザーの反発を招き、株価が下落するまでに至り、mixiは事実上この改定案を撤回するに至ったという騒動である。(この事件については、ネットで検索すれば山ほど記事が出てくるが、最近の記事として、ITmediaの記事マイコミジャーナルの記事にリンクを貼っておく。)

 実際、この騒動は、mixiの知財に関する定見の無さから引き起こされたもので、mixiに同情の余地はあまりないと言ってしまえばそれまでだが、ブログや掲示板などの他のサービスでも同様な騒動は十分起こり得る。

 今回のmixi騒動では、ネットにおけるこのようなサービスにおいて競争が成立しているが故に、ユーザーとサービス提供会社の間にバランスが成立し、結局規定の再改訂ということになったが、今後、独占性の強いサービスで似たようなケースが発生することも十分に想定される。サービスの独占性が強い場合、サービス事業者は、その独占を背景に、ユーザーにとって不利な著作権規約を押しつけようとしてくることだろうが、このような独占の濫用による不利な契約の押しつけが、独禁法違反であることは、誰もが知っていておいて良いことである。

 この問題は著作権問題の一種として語られることが多いが、政策的には、知財権自体の問題というより、ネットにおける各種サービスの競争環境の維持の問題である。事実上の独占・寡占が成立しているサービスにおいては、(役所の常としてあまり信用はできないが)公取への相談・申告も視野に入れ、独占の濫用による不利な規約の押しつけは独禁法違反であるとはっきりサービス提供会社に申し入れて、正当な規約の作成を求めることは誰にでもできることであり、また皆でやらなくてはいけないことでもある。インターネット時代においては、知財法だけではなく、独禁法のような競争法もまた事業者だけの法律ではなくなるのだ。

(2)初音ミク騒動
 また、これは少し旧聞に属するが、「初音ミク」という音声合成・ミュージックソフトで作られた楽曲が動画共有サービスで人気を呼び、着うた・カラオケ配信されようとする際に著作権管理団体に登録されるに及んで、それまでネットでほぼ自由に2次利用が可能であった楽曲がネットで完全に利用不可能になるのではないかと、ネットユーザーのコピーフリー派の反発を受け、着うた配信会社とソフト開発・発売会社の間の行き違いによるゴタゴタも相まって、ネット上での大騒動となった。

 結局、着うた配信会社とソフト開発・発売会社の間で一定の取り決めができ、ネットでの2次利用に関してはほぼ今まで通り権利行使されないだろうことが分かるに及んで、この騒動は大体収束した訳だが、この騒動のお陰で、著作権管理団体と権利者・利用企業との契約の問題と、ネットにおける2次利用の問題に今までにないスポットライトが当たることになった。

 第57回でも書いたように、著作権管理団体には功罪ともにあるが、著作権管理団体と権利者・利用企業の契約の問題も、私は、知財権そのものの問題というより、その運用と独占の弊害の問題だと私は思っている。契約自由の原則がある中、著作権管理団体との契約を権利者や利用企業が、対等な立場でもって正当に結んでいるのであれば良いが、そうではなく、既存の流通手段に対する独占的な地位の濫用により、権利者や利用企業に不利な契約を団体が押しつけているということがあるとしたら、これもまた、例え時間をかけても排除されて行くべきことだろう。

(また、私は著作権管理団体の登録ユーザーでも利用ユーザーでもないので、個別の団体の批判をできる立場にないが、著作権管理団体、例えばJASRACe-licenseの管理委託契約約款を比べてみるのも面白い。

 e-licenseの契約約款では、レコード、ビデオ、配信、カラオケ等の利用類型毎に権利の委託が可能であるのに比べ、JASRACの契約約款では、演奏権や録音権といった形で支分権を4つに分け、これらの分類毎に権利を委託することができるとした上で、映画、ビデオグラム、配信、カラオケなどの利用類型に関する権利委託を除くことができるとしている。一見同じようなことができるように見えるのだが、JASRACの契約では、除外できる利用形態の中にレコードへの録音が含まれていないので、JASRACと契約した場合は、レコードへ録音する権利に関しては必ずJASRACへ委託されることになる。

 要するに、JASRACとの契約だと、カラオケに関する徴収だけをまかせて、CDは自分でプレスするといった融通が利かないので、ユーザーは気をつけた方が良い。(配信に関する利用はJASRACでも除けるので、ネットでの利用に関して委託をしないということは両方ともできる。)これもまた、契約のトリックのようなものだが、誰もが権利者になり得る現在、著作権管理団体と直接契約するユーザークリエーターはこれからももっと出てくるだろう。気にしているユーザーはまだあまりいないのかもしれないが、どんなサービスであれ、規約や契約は、利用する前に本当に細かなところまで良く読み、自分でその意味を考えてみることを強く勧める。)

 このような運用と契約に関する問題は、競争状態さえ維持されていれば、利用者とサービス提供者の間で自然にバランスが取られるはずだが、一旦確立された独占状態を排除するのはなかなか難しいかも知れない。時間をかけても本当に難しいようなら、この著作権管理団体との契約に関する問題に関しても、さらなる規制緩和や独禁法の適用が考えられて良いだろう。(独占状態を排除するために、独占的な地位にある著作権管理団体を解体することや、プラーゲ旋風が吹き荒れた時代でもあるまいし、信託業法の特別法となっている著作権等管理事業法自体を廃止し、このような管理事業を信託業法だけに委ね、この規制業種をさらに一層自由化することが検討されても良い。どこまで行っても、知財権による独占は知財権の不当な独占を正当化しないのである。)

 また、初音ミクに関する話として、音楽やキャラクターのネットにおける2次利用の問題もあるが、2次利用を制限されるとなるとかえってユーザー・クリエータ離れを招き、文化的なクリエイティビティが下がり、全体としてビジネスのパイが減ることは、今回の騒動でも示されている。そこでビジネス的にバランスが取られて行くだろうことを考えると、この点に関する法規制は余計な歪みを生むことになるだけだろう。ネットにおける各種2次利用の問題に関しても、今後時間をかけて、契約と暗黙の了解に基づいた整理をネット上でして行く他ないと私は思っている。(逆にビジネスでこのバランスが崩れ、かえってクリエイティビティが下がるようなら、ここでもまたパロディの権利制限を設けるなどの形で天秤を逆に傾けようとすることが政策的に必要になって来るだろう。第56回で書いたように、インセンティブつき著作権登録制度の創設は、何らこのような著作権問題の解決には立たないに違いない。)

 なお、初音ミクに人格はあるのかといった話がされることもある(ITmediaの記事参照)が、今のところ、初音ミクのような楽器・音楽ソフトに対して重畳的に権利をさらに発生させた方が良いとする理由は何もなく、楽器は楽器のままにしておくべきだろう。(話としては面白いと思うが。)

(3)著作権によるウィルス作成者別件逮捕事件
 最後に、著作権によるウィルス作成者別件逮捕の問題も取り上げておこう。ウィルス作成が良いことなどというつもりもないが、これほど明白な別件逮捕も珍しく、ウィルス作成に関する色眼鏡を外して考えれば、この事件は、アニメ画像1枚の著作権侵害でもいきなり逮捕されることがあることを示した点で、著作権の持つ問題点の大きさを浮き彫りにしている。(参考に、地裁で最初の公判が開かれたという最近の読売新聞のネット記事へのリンクを貼っておく。)

 今、著作権侵害は、基本的に権利者が告訴しなければ刑事訴訟手続きを進めることができない親告罪とされており、この親告罪となっていることが、このような別件逮捕に対する一定のセーフハーバーとなると私は思っていた。だが、警察に言われて協力したのかも知れないが、権利者が別件逮捕に協力することがあると示されたのだ。裁判中でもあり、まだ最終的にどうなるか分からないところもあるが、もし本当にこのような逮捕が法的にも妥当なものとされたら、これは法律上の大問題である、ファンサイトなどでアニメ画像を1枚引用することすらアクロバティックな別件逮捕の引き金となりかねない、ネットの安全性の確保のため、ここにも1クッション、何らかのユーザーのためのセーフハーバーを法的に設ける必要が出てくるだろう。(民事手続きなら、通信の秘密などがあり、プロバイダー責任制限法に従って手続きを進めなくてはならないという点がセーフハーバーになっているが、刑事手続きでは、例えアニメ画像1枚の著作権侵害だったとしても、犯罪行為さえ明確なら、通信ログなどを警察が直接プロバイダーに開示させられる。)

 また、このような別件逮捕を警察が平気で行うことが分かった以上、著作権の非親告罪化は絶対認めてはならない。また、非親告罪化に加えて、ダウンロード違法化がなされた場合、ほとんど全ネットユーザーに対する恣意的な逮捕権を警察に与えることになるだろうということも、この事件は示している。著作権法の非親告罪化もダウンロード違法化も、最近の警察による恣意的な法律の運用を見るにつけ、反対する理由は増えるばかりである。今後も私は、ユーザーとして、これらの法改正には断固反対と言い続けるだろう。

 これらの事件のネットにおける騒がれ方は、インターネットが普及する中、知財問題、特に著作権問題が全ネットユーザー・全国民に関係する大問題となって来つつあることを端的に示している。あらゆる者が知財問題に無関心でいられなくなる時代が既に到来しつつあるのだ。

 次回から、またいくつか表現規制一般に関するエントリを書きたいと思っている。

(3月21日夜の追記:ウィルス作成行為自体をどうするかということも実に厄介な問題なので、また別途考えをまとめたいと思っている。)

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