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2008年3月 1日 (土)

番外その7:コンテンツ制作と競争政策

 外国の著作権法の紹介をしようと思っていたのだが、総務省で「放送コンテンツの製作取引の適正化の促進に関する検討会」という研究会が、1月31日から始まったというマイコミジャーナルの記事や、総務省の第33回のデジコン委員会で、制作プロダクションと放送局が激しい意見の対立を示したという小寺氏のブログ記事を読んで、コンテンツ制作と競争政策に関する話を、ちょっと番外として書いてみたくなった。

(なお、Wikipediaにもある通り、製作者は作品に出資し、著作権を有するが、制作者は単に出資金を受けて作品を作るだけで、著作権権利は持たないというように、「製作」と「制作」は別な意味に使われることがある。衣のあるなしだけなので、分かりにくいと言えば分かりにくいのだが、便利な区別なので、以下の記事でもこの通りの区別で用語を使っていることにご注意頂きたい。必ずしも厳格に使い分けられてはいないだろうが、制作/製作のクレジットから、放送局と制作プロダクションの力関係が分かる番組があるのも面白い。)

 何故か総務省のいくつかの研究会で、放送局のコンテンツ取引における下請け構造の問題が議論されている訳だが、本来、このような不公正な取引の是正を行うのは公正取引委員会の仕事であって、総務省の仕事ではない。上の記事で、総務省が、コンテンツの取引に関するガイドラインを作るかのようなことを言っているが、既に、公正取引委員会で、「役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針」や、コンテンツ取引と下請法に関するパンフレットが作られているので、総務省が今さら何を作るつもりなのかさっぱり分からない。(独禁法と下請法に関しては、他にも山ほどガイドラインだのパンフレットだのが出されているので、興味のある方は公取の独禁法ホーム下請法ホームを見てもらえればと思う。)

 私は制作会社の実情について詳しい訳ではないが、このようなことが総務省で議論されていること自体、独禁法や下請法の内容が制作会社に良く知られていないことを示しているのではないかと思う。恐らく、制作会社も製作会社もこれらの法律の内容をよく知らないか、知っていてもこれらの法律をオーバーライドして余りあるビジネス慣行が厳としてコンテンツ業界に存在していることが本当の問題なのではないだろうか。

 そうだとしたら、上の公正取引委員会のガイドラインなどに書かれているように、権利の不当な提供要請や不当な発注変更などは、既に独禁法や下請法で規制されているのであって、あとはもう法律のエンフォースの話でしかない。もし本当に下請けの制作会社が業界慣行の是正を求めようとするなら、即刻団結して公正取引委員会に報告・相談した方が良いだろう。すぐにどうこうなる話とも思われないが、本当に慣行を変えたいのなら少しずつでもやれることをやるしかない。

 どの検討を見ても、放送局と癒着しているとしか思われない総務省にはどだい無理な話かも知れないが、もし本気でこのような不当取引の問題に取り組むのであれば、是非総務省には自ら、公正取引委員会へ申告(是正措置を求める報告のことをこう言うらしい)することを検討してもらいたいものである。(なお、独占禁止法(正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」)の第45条に規定されているように、独禁法上の申告は誰でもでき、下請法(正式名称は「下請代金支払遅延等防止法」)でも、下請法の解説パンフレットのフローチャートによると、所管官庁からの通知で親事業者に対する調査が開始されるようである。)

 また、下請法そのものについてだが、請法は、その特別法になっているというほど独禁法との関係が明確な訳でもなく、その是正命令も勧告(第7条)という行政指導によってなされ、罰則も注文書の交付義務・書類作成保存義務について50万円以下の罰金が科される(第10条)だけという非常に中途半端な法律である。重大な不正取引行為は独禁法で取り締まれるので良いとしているのかも知れないが、公正な取引環境の監視と維持は、競争政策上非常に重要なことであり、決しておろそかにされて良いものではない。無意味に知財規制や表現規制を強化しようとするより、独禁法と下請法の関係をきちんと整理し直し、下請け規制のエンフォースを強化した方がよっぽど下積みのクリエータ支援になるように私には思えてならない

 ただし、最近の各官庁の規制政策の迷走によって生じている官製不況の例を持ち出すまでもなく、どんな規制でも、強化のしすぎは当然逆効果になるので、安易に規制強化に流れてもらいたくもない。競争政策もまた非常に舵取りが難しい分野なのである。(独立行政委員会のはずが、最近、各官庁と人事交流を密にしようと言い出す(日経のネット記事参照)など、役所の常として公取もあまり信用はできない。)

 知財政策は裏返しの競争政策なので、今後もこのような競争政策関連の話について、たまには取り上げていこうかと思っている。(例えば、知財政策と競争政策ということでは、パテントプールや独占的な著作権管理の問題や、B-CASと独禁法の関係など、もう少し深く掘り下げて考えてみたいと思っている。)

(それと、ついでにエルマークと独禁法の話も少し書いておくと、エルマークをつけることに何らかの不利益があって、日本レコード協会がその優越的地位を濫用して、このマークの付与を押しつけたのであれば、独禁法違反となるだろうが、今のところ、エルマークはコンテンツの出所表示という商標本来の使い方をしているだけであり、特に、エルマークをつけることによってサイト事業者に不利益が発生している様子もないので、恐らく独禁法上の問題となることはないだろう。このようなデザインセンスの悪いマークは無料でもサイトに載せたくないというライセンシーがいたら困ってしまうだろうが、独禁法でどうこう言うレベルの話とも思われない。)

 さて、最後に、ここ1週間の国内の政策関連ニュース記事へのリンクを念のために張っておこう。

 まず、27日の文化庁の文化審議会・著作権分科会で、私的録音録画問題の継続検討が正式に決まった(ITmediaの記事)ようである。ダウンロード違法化問題も、補償金問題もまだ終わらないし、この程度で終わらせてもいけない。

 総務省では、27日の有害サイト問題検討会の議論で、フィルタリング原則化の話がますます混迷を深めている(cnetの記事internet watchの記事)。ブラックリスト方式の採用を求めながら(ITmediaの記事)、一方で、健全サイト認証機関を後押ししようとする(ITproの記事)など、とにかく総務省の言動は理解不能である。そもそも私自身はフィルタリングの原則化は無意味な規制でやるべきではないと考えているのだが、ブラックリスト方式ならば、まずブラックリストに載せる基準の明確化から行うべきなので、健全サイト認証とは結びつかない。不当なブラックリスト指定については、携帯電話事業者がそれぞれの基準に照らし合わせて無料で解除する簡便な手続きを備えていればそれで良く、このような認証機関など必要ないはずである。ブラックリスト指定を不当に乱発し、認証機関で不当に審査料をせしめ取り、さらにこの不当にせしめた審査料と、正当な理由もなく流し込まれる税金で天下り役人を飼うのだとしたら、これは官民談合による大不正行為以外の何物でもない。(今のところは良く分からないが、総務省はこの認証機関を天下り団体とするつもりなのではないか、総務省は天下りにこだわるばかりに頭がおかしくなっているのではないかという疑念を私はぬぐい切れない。)
 また、情報通信法の検討委員会でも、他の有害サイト規制議論を牽制したらしい(マイコミジャーナルの記事)が、何せ総務省の検討委員会なので、まずもってここからもロクな検討結果は出てこないだろう。

 次回は、予定通り外国の著作権法の紹介をするつもりである。

(3月1日夕方の追記:出会い系サイト規制強化法が閣議決定されたというニュース(朝日のネット記事産経のネット記事読売のネット記事)があった。警察庁のホームページには、その要綱新旧対照条文が載っているが、パブコメにかけられた研究会の報告書の内容をほぼ条文に落とし込んだもので、さっぱり要領を得ない。まだ国会提出はされていないようだが、それにしても、パブコメの結果を公表することもなく、政府で閣議決定をするというのは国民に対する重大な信義則違反ではないか。不都合なパブコメが多かったので隠したのだろうか。これが国民の生活と安全を守る警察のやることだろうか。)

(3月3日の追記:ITmediaで小寺氏自身が、デジコン委員会での検討内容について詳細なコラムを書かれている。私のような半可通の意見よりよっぽど面白くてためになるので、是非、ご一読をお勧めする。)

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