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2008年1月29日 (火)

第54回:警察庁提出パブコメ

 第50回で書いたこととかなり重なってしまっているが、下記のようなパブコメを警察庁に出したところである。このようなものでも、誰かの参考になるかも知れないと思うので、ここに載せておきたいと思う。

     記

1.氏名:兎園
2.連絡先:

3.意見:
(概要)
 私は、出会い系サイトの問題を放置するべきだなどということを言いたいがために、このパブコメを書いている訳ではないことを最初に明言しておく。
 しかし、この警察庁の報告書は、出会い系サイトに関する問題の現状をねじ曲げ、全く問題解決の役に立たないどころか、国民の血税を無駄に浪費するだけの有害無益な方策を書きならべたものでしかなく、このような妄想ペーパーに基づいて法改正を行うことなど到底許されない。
 法律を最も厳格に解釈・運用するべき行政機関である警察によって、このような報告書がまとめられたことについて、私は憤りを禁じ得ない。このようなデタラメな報告書をまとめたことについて、私は一国民として、警察庁に、以下の警察法の第2条を今一度読み直し猛省することを促す。このような有害無益な報告書の方策を全て捨てた上で、警察には真の問題解決へとつながる地道な活動を、今後は進めてもらいたい。

「第2条 警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。
2 警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあつてはならない。」

(1)p.11「提言① 都道府県公安委員会に対する届出制の採用」に反対する

(理由)
 インターネットにおける事業者の把握が困難なことと、届出制は全く結びつかない。事業者の把握が困難な理由としてあげられているのは、①警察が情報開示を求めても事業者が個人情報保護を理由に開示に応じない、②海外サーバを経由された場合、海外サーバ事業者等の協力を求めなくてはならないが、これは困難、③事業者が仲介業者を介して電気通信事業者と契約している場合、電気通信事業者の契約相手が出会い系サイト事業者と一致しない、という3点であるが、届出制を採用したところで、このような海外のサーバや仲介業者を使っているような悪質業者が完全に特定困難だとすれば、届出に対する違反の罰則すら適用不可能なはずであり、このような規制が全く悪質業者対策にならないことは明白であり、この提言における理由付けの論理は完全に破綻している

 また、例えば児童の不正誘引の書き込みはそれだけでも犯罪なのであるから、警察がきちんと手続きを踏み、令状なりを取って開示を求めれば個人情報であったとしても開示されないということはないはずである。そもそも、このような正式な手続きを抜きにして、警察が事業者に情報開示を迫っているとしたら、その方が大問題である。

 さらに、報告書には、今の出会い系サイト規制法(「インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律」)における「インターネット異性紹介事業」の定義は、犯罪の構成要件ともされるくらい厳格な要件であり、十分に明確であるとも書かれているが、その第2条の定義は、

「異性交際(面識のない異性との交際をいう。以下同じ。)を希望する者(以下「異性交際希望者」という。)の求めに応じ、その異性交際に関する情報をインターネットを利用して公衆が閲覧することができる状態に置いてこれに伝達し、かつ、当該情報の伝達を受けた異性交際希望者が電子メールその他の電気通信(電気通信事業法 (昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号 に規定する電気通信をいう。以下同じ。)を利用して当該情報に係る異性交際希望者と相互に連絡することができるようにする役務を提供する事業」

というに過ぎない。これでは、普通の掲示板・SNS・ブログやメールサービスだろうと何だろうと、面識のない異性交際のためのやりとりを通信で可能とするような事業は全て含まれ得るのであって、このような定義に基づいて届出制を課すなどということはあり得ない。さらに、第6条の不正誘引行為について刑罰が科されているにしても、児童を不正に誘引することをもって刑罰を科しているのであって、このことが上の定義が明確である理由とならないのは当たり前の話である。このような稚拙な論理で国民を騙そうとする警察庁は猛省してしかるべきである。
 さらに言っておくと、面識のない異性交際のための通信はどのようなコミュニケーション手段を用いても可能であり、そもそも、出会い系サイト事業を定義可能であると思っていること自体間違っている。

 また、児童保護のために表現の自由を制限してサイトへの書き込みを削除して良い場合がある、すなわち、届出制によって付与された不透明な行政指導権限による検閲が正当化できるということではないということも指摘しておく。このような論理の飛躍は決して許されない。本来、最も厳格に法律を解釈・運用するべき警察庁から、真摯な憲法論に到底耐え得ないこのようなペーパーが出されたことは、それだけで許しがたいことである。この点については、芦部信喜先生の「憲法」のみならず、同先生の「憲法学」、佐藤幸治先生の「憲法」、伊藤正巳先生の「憲法」、浦部法穂先生の「憲法学教室」、野中俊彦先生他の「憲法」など著名な教科書の表現の自由と検閲に関する項目を良く読み直してから、出直して来てもらいたい。

(2)p.14「提言② 出会い系サイト事業者には、児童に関係する書き込みを知ったとき、その書き込みの削除を義務付けること」について反対する

(理由)
 (1)で述べたように、出会い系サイト事業の定義は実質不可能であり、その範囲はどうしても恣意的にならざるを得ない。このような定義に基づいて削除義務を課すことはそもそも適切でない

 また、サイト事業者が、法に抵触する投稿に対して発する警告メッセージには何の権限もないことから、違反者に対し効果がない場合もあるとの指摘を取り上げて、これが規制の根拠ともなり得るような印象操作を行っているが、この記載も全く適切でない。サイト事業者が、ユーザーが法行為を繰り返す場合は、IPアドレス等個人情報の開示も含めて警察へ通報することをきちんと警告メッセージに含ませれば、通常のユーザーであれば違法行為をやめるであろう。これは、単にサイト事業者が警告の書き方について弁護士なりとの相談が必要であることを示しているに過ぎない。警告を無視してさらに違法行為を繰り返すようであれば、問答無用で警察に通報すれば良いだけのことである。このことは全く規制の根拠たり得ない。

 無意味な規制の導入は、かえって悪質業者とユーザーのモラルハザードを引き起こすだけである。「①児童が異性を誘う書き込みと、②大人が異性の児童を誘う書き込み」は今でも違法なのであって、普通の事業者であれば、自らのサイトにおいてこのような書き込みを事業者の判断で削除可能とする規約を立てているであろうし、実際、大手出会い系サイト事業者のほとんどが自主規制を行っていることが報告書でも書かれていることを考えると、この点は、引き続き自主規制に委ねるべき点であると私は考える。

 さらに指摘しておくと、サイト事業者が自主的に行うならまだしも、何の権限も有しないインターネットホットラインセンターなどの民間団体からの強圧的な指摘により、書き込みの削除が行われることなどあってはならないということを報告書では明記するべきである。このようなセンターは単なる一民間団体で、しかもこの団体に直接害が及んでいる訳でもないため、削除を要請できる訳がない。削除要請や取り締まりは、法律の制限を受ける権限に基づいてきちんと警察が行うべきことであり、このような半官検閲センターに無意味に税金を投入することは即刻止めるべきである。

(3)p.17「提言③ 出会い系サイトに関係した児童被害の防止活動を行う民間団体に対し、公安委員会が情報提供等の支援を行うこと」について反対する。

(理由)
 何の取り締まり権限も削除要請権限もない単なる民間団体に、役所(公安委員会)へ届け出られた情報をそのまま垂れ流して、それで児童被害が防止できると言うなど、気が狂っているとしか思われない。そもそも、役所が業務上知り得た情報を、そのまま民間団体に流すことに法律とモラルの点の極めて大きな問題がある上、有害情報を収集して、直接削除要請などを行う民間団体があるということ自体おかしいと考えるべきである。
 犯罪の取り締まりについて警察に協力することは市民の義務であろうし、違法な行為を見つけて警察に通報する民間団体は別にあっても良いが、単なる一民間団体に有害情報に対して通報が行われ、しかも団体に直接害が及んでいないにも関わらず直接削除要請などを行うことなどどう考えてもおかしいという常識を警察庁には持ってもらいたい。そもそもインターネットホットラインセンターの透明性にも問題があるが、Wikipediaによると、インターネットホットラインセンターは警察庁からの受託金収入で運営されているとのことであり、無駄な天下り団体として税金の浪費になっている可能性が高い。このような無駄な半官検閲センターに国民の血税を流すことは到底許されないのであって、本来その分できちんとした取り締まりと削除要請ができる人員を警察に確保するべきであると私は考える。
 まず私が求めるのは、このような半官検閲センターの即刻廃止である。

(4)p.17「提言④ 年齢の自主申告方式を一部廃止し、年齢確認方法を一層強化すること」に反対する。

(理由)
 (1)で述べたように、出会い系サイト事業の定義は実質不可能であり、その範囲はどうしても恣意的にならざるを得ない。このような定義に基づいて年齢確認の義務を課すことはそもそも適切でない

(5)p.18「提言⑤ 児童の利用を防止するため、出会い系サイト事業者の責務を法に明記すること」に反対する。

(理由)
 (1)で述べたように、出会い系サイト事業の定義は実質不可能であり、その範囲はどうしても恣意的にならざるを得ない。このような定義に基づいてユーザー排除の義務を課すことはそもそも適切でない

(6)p.19「提言⑥ フィルタリングの普及を促進するため、法に保護者及び携帯電話事業者の責務(努力義務)を規定すること」に反対する。

(理由)
 未成年者の携帯電話に対する総務大臣のフィルタリング導入要請について、全く触れられていないこと自体不可解であるが、この総務省の要請についてもその有効性に疑問が呈されている中、さらに加重規制を課そうとすることの意味は全く理解できない。

 また、これは内閣府に言うべきことなのかも知れないが、この1月28日に公表された「インターネット上の安全確保に関する世論調査」の結果について、「18歳未満の児童がパソコンや携帯電話などでインターネットを利用する場合、フィルタリングが必要であると思いますか」との質問に対し、3006人のうち62.9%が「必要であると思う」と答えたそうだが、3006人のうちフィルタリングについて「全く知らない」者がが62.2%もいるにも関わらず、その全員に対してフィルタリングを必要とするか否かを聞くなど、この調査はアンケートのやり方のアの字も知らないデタラメぶりであり、このようなデータに基づいて世論が求めているなどということは悪辣な欺瞞以外の何物でもない。
 また、未成年にフィルタリングが必要か否かという質問だけを立てることもおかしい。ほとんどの未成年が親の保護監督下にあることを思えば、普通に考えれば、必要と思えばほとんどの場合未成年のフィルタリングを導入することは可能なはずである。フィルタリングの存在を知り、かつ、フィルタリングの導入が必要だと思っていて、なお未成年にフィルタリングをかけられないとする親に対して、その理由を聞くか、あるいはフィルタリングをかけている親に対して、そのフィルタリングの問題を聞くかしなければ、フィルタリングの本当の問題点は見えてこないはずである。その他いちいち指摘しないが、このように有害な印象操作がそこら中で行われ、全く信用できない調査を政策判断の材料とすることなどあってはならない。
(インターネットホットラインセンターについても全く同断であり、知らない者が9割近くにも上るにも関わらず、その全員に対してその有効性について聞き、「インターネットホットラインセンターは安全を守るために有効と思う」と7割近くの人間に答えさせるなど、悪質な印象操作以外の何物でもない。このような調査から分かるのは、役人の情報リテラシーの低さのみであり、まず全省庁の全役人に対して明快な情報リテラシー教育を早急に行うべきであるとしか言いようがない。情報に対する役人の認識がこの程度では、政府からの情報漏洩が止まらないのも無理はない。)

 そもそも、国民の自由な選択を潰してまで、フィルタリングの原則導入をしなければならない理由は全く不明であり、このような義務化は現時点では不当規制であると言わざるを得ない。

(7)p.20「提言⑦ 本法に違反した者は、行政処分(事業の停止命令を含む)の対象にすること」、「事業者の欠格事由を設け、該当者は事業廃止命令の対象とすること」に反対する。

(理由)
 (1)で述べたように、出会い系サイト事業の定義は実質不可能であり、その範囲はどうしても恣意的にならざるを得ない。このような定義に基づいて事業者に対する行政処分あるいは欠格事由を定めることはそもそも適切でない
 また、罰則を警察庁で検討するとしているが、取り締まる側の人間が罰則を検討するのはデタラメも良いところである。警察庁には三権分立の意味と、警察法の主旨を今一度自らに問い直して、その行いを改めてもらいたい。

(8)報告書全体について
 この報告書において売春防止法に対する言及が全くないことも不可解である。その第5条にははっきりと、

「(勧誘等)
第5条  売春をする目的で、次の各号の一に該当する行為をした者は、六月以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。
一  公衆の目にふれるような方法で、人を売春の相手方となるように勧誘すること。
二  売春の相手方となるように勧誘するため、道路その他公共の場所で、人の身辺に立ちふさがり、又はつきまとうこと。
三  公衆の目にふれるような方法で客待ちをし、又は広告その他これに類似する方法により人を売春の相手方となるように誘引すること。 」

と書かれているのであって、年齢にかかわらず、それがインターネットであるかどうかにもかかわらず、全て公衆の目にふれるような方法で売春を誘う行為は既に刑罰の対象となっているのである。この報告書における、児童売春はダメだが、それ以外の売春は良いとするかの如き印象操作についても、私は明確な釈明を求める。

 繰り返しになるが、サイトへの書き込みが売春誘引行為なり、児童に対する不正誘引行為なりであれば、その時点で既に犯罪なのであり、その書き込みがされたという事実をもって警察による削除要請や、書き込んだ者に対する取り締まりがなされるべき話であって、それ以上の話ではない。売春行為なり、児童に対する不正な誘引行為が大手を振って許されている国もないであろうから、海外サーバを経由している場合であっても、現地の警察ときちんと協力すれば取り締まりが可能なはずである。

 また、第3回研究会提出資料の「出会い系サイトに関する諸外国法制調査結果」を見ても、主要各国で、出会い系サイトの届出制を取っている国などないということの意味を警察庁は明確に認識するべきである。EUもコントロールよりリテラシー向上が重要と考えていることはネット記事(http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2007/12/25/17993.html)にもなっており、EU自らもプレスリリース(http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=IP/07/1970&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en)を行っていることをよく考えてもらいたい。このような国際潮流を、官庁の方針に都合が悪いということのみをもって、握り潰すことがあってはならない

 出会い系サイトに対する誘引の書き込みも、それ自体では、単なる情報に過ぎないのであり、人と人とのコミュニケーションを止めることは最後できないことを思えば、本当に重要なことは、インターネットに散らばる膨大な情報を自ら取捨選択する情報リテラシー能力であって、この能力を高める本当の国民教育抜きにしては、いかなる規制も意味をなさないと私は確信する。

 結局、届出制の導入の提言は、本当の問題解決につながる地道な取り組みをないがしろにして、このような制度によって与えられる許認可権限によって、インターネットホットラインセンターのような存在意義自体怪しい天下り団体を通じた不透明な行政指導を正当化し、出会い系サイト業者との癒着と天下り利権の強化を図ろうとする警察官僚の悪辣なたくらみを露骨に反映したものとしか思われない。このような社会全体にとって全く有害無益な規制の導入は、一国民として到底承伏することはできないものである。

 最後に、出会い系サイトの問題を放置するべきだなどということを言いたいがために、このパブコメを書いている訳ではないことを示すために、このような有害無益な報告書の提言の替わりに、以下のような地道な施策を私はここで提案する。

現行の出会い系サイト規制法の運用においても、これが過度の規制とならないように気をつけること。そもそも出会い系サイトの定義が本質的には不可能であることを考え、現行法の事業規制すら、過剰規制となっているのではないかという観点から再点検を行うこと。
有害無益な半官検閲センターであるインターネットホットラインセンターを廃止すること
ネット由来の犯罪に対する警察への通報窓口(ネット由来の犯罪なのであるから、警察でメールアドレスを一つ用意するだけでも良い。民間団体に過ぎないインターネットホットラインセンターへの通報など論外である。)を一元化し、この窓口を周知徹底すること
海外サーバーを経由して行われる事案に対応するため、海外現地警察との協力体制を構築すること
⑤警察官の弾力配置により、ネット由来の犯罪に対応する警察官を増員し、この警察官に対して技術と法律と情報リテラシーに関する教育を徹底すること
法律によって明確に制限を受ける警察の権限による、児童の不正誘引と売春誘引の書き込みに対する取り締まりを強化すること
未成年のフィルタリング原則導入に関しては、国民の選択肢を潰してまで導入しなければならないとする理由をまず明確にすること。(これを明確にできないようであれば、導入はしないこと。)
⑧(これは警察庁だけに言うことではないだろうが)ネットにおける情報を自ら取捨選択する能力を身につけるための、国民的な情報リテラシー教育を充実させること

 念のため、「頂いたコメントを重く受け止めて推進する」などという官僚の遁辞を私は求めているのではないこと、私はこの報告書の方向性に完全に反対しているのだということをここに書いておく。

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