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2007年11月14日 (水)

番外その4:沈みゆく巨大船団、地デジ

 B-CASカードを用いたコピーワンス制限解除機器フリーオ(Friio)に関することが、ネットでほとんど祭り状態で騒がれている。騒がれるのも当然で、B-CASシステムそのものに穴を空けるこのような機器の登場が、日本の今までの地上デジタル放送政策を揺るがす大事件であることは、いくら強調してもしすぎではない。(今は、地上波対応機のみのようだが、3波共用機の登場も容易に予想され、そうなったときは、BSやCSも巻き込んだ大騒ぎになるであろう。)

 B-CASそのものの問題については以前(第18回第22回参照)から書いてきており、繰り返すことはしないが、コピーワンスとB-CASの問題は、地上無料波のデジタル移行そのもの本質に繋がる問題なので、今回は番外として、ユーザーから見た地上デジタル放送の問題点についてまとめておきたいと思う。(なお、B-CAS問題の本当の解決策はB-CASシステムの速やかな排除しかない。B-CASの法制化など決してしてはならない。そのエンフォースの不可能性のよってきたるところは、無料地上波のユーザーが国民全員であることなので、いくら法律で縛ろうとしたところで必ず無理が出てくる。)

 そもそも無責任にテレビでもチューナーでもアンテナでも買い足せばOKと書いてある時点で腹が立つのだが、デジタル放送推進協会(D-pa)のHPに載っている案内によると、地上デジタル放送を見るためにユーザーは以下のことをしなければならない。

・UHFアンテナがない場合、UHFアンテナを買って取り付けること。(工事費込みで2万円~数万円くらいか。)
・アナログテレビしかない場合、デジタルテレビかデジタルチューナーを買うこと。(チューナーで2万円、デジタルテレビでは10万~20万くらいが中心価格帯だろうか。)

 要するに、何故かお役所などの資料では消費者のコストに関することが綺麗にごまかされてきていたのだが、要するに今、地上デジタル放送移行に際し、消費者には最低2万~4万の投資をすることが求められているのだ。

(なお、「地上デジタルテレビ早わかりガイド(別冊)アナログテレビ放送が止まる!どうして?」も、何故人によってとらえ方の変わるメリットばかりを書いて、デメリットを書かないのか理解に苦しむ。素直に国策だから必要なのだと書いてくれた方がよっぽど良い。)

 そして、アナログが停波されること自体はそれなりに浸透してきたのではないかと思うが、かなりの出費が必要となることを考えると、国民の中には地デジに対する出費をためらっている層もかなりいると思われる。実際のところ、アナログ停波まで4年を切ったにもかかわらず、以下のような層がそれぞれどれくらいいるのかがさっぱり分からないのだ。

(1)既にテレビをデジタル対応のものに買い換え、UHFアンテナもあり、地上デジタル放送対応を済ませている層
(2)テレビをデジタル対応のものに買い換えたが、UHFアンテナがなく、地上アナログ放送を見続けている層
(3)テレビを買い換えるつもりはあるが、様子を見ている層
(4)デジタルチューナーで対応するつもりで、様子を見ている層
(5)テレビもチューナも買い足す気はなく、アナログを停波とともにテレビを見るのを止めるつもりの層

 地上デジタルテレビの台数だけで言えば、累計で2600万台を超えたとのことだが、本当にデジタル対応を済ませている(1)の層はどれくらいいるのか。私も含め、実はほとんどの層が、コピーワンスの検討の混乱などを見ながら、地デジ移行は本当に大丈夫かと様子見をしているのではないか
 (3)と(4)の層を安心させ、速やかにデジタル移行を促進することが必要とされているのだろうが、きちんとした統計もなく、総務省からは今のところ本当に実現されるかどうかもよく分からない場当たり的な政策しか提案されていないので、私は以下のような点でどうにも不安にならざるを得ないのだ。

・チューナーで対応するつもりの層をどうするのか。総務省の情報通信審議会でメーカーに5000円にしろと最近答申している(概要ITmediaの記事も参照)が、B-CASという暗号システムを含む機器を5000円に出来るとは素人目にも思えない。総務省には何かアテがあるのか。またここに税金を投入するのか。税金を投入するとしたら、先にチューナーを買った人との不公平感をどうするのか。
 また、上の答申でも、経済的に困窮度が高い者には支援をすることとしているが、どのような層が対象となるのか

・テレビやチューナーは、メーカーさえ十分な数を供給すれば、最後入手に困ることはないかも知れないが、アンテナ工事は作業員が必要である。アンテナ工事の駆け込み需要のことまで考えているのか。(ITproの記事によると、特に東京地区ではUHFアンテナの普及率は5割程度にとどまるらしい。東京での世帯数は600万世帯ぐらいのようなので、実際には集合住宅もあるので何とも言えないが、単純計算だと300万軒のアンテナ工事が必要となる。加えて、オフィス等のテレビのことも考えなければならない。)
 さらに、5000円のチューナーを買わせることすらおかしいと思う層は、アンテナ工事の費用負担に怒りを爆発させるのではないか。それだけの費用を払っても、この層には何のメリットもないのだ。受信機購入の支援はアンテナにも及ぶのかということもある。

使えなくなるアナログテレビはどうするのか。家電リサイクル法でブラウン管テレビはリサイクルされることとなっているが、予想される廃棄台数に対してリサイクル工場のキャパシティが本当に十分にあるのか。不法投棄対策は十分なのか。家電リサイクル法自体もいろいろな問題が指摘されているところである。

 こう考えてくると、どうしても、今後地デジ移行のための混乱は増えこそすれ、減ることはなく、今のままアナログ停波を断行すると、駆け込み対応で混乱した上に、テレビが見られなくなる家庭が多く残るという事態を招くだけではないかと思われて仕方がない。結局地上デジタル放送そのものが見限られることにもなりかねない。(別にテレビを見られなくとも人は死なないが、このような事態を招くことは明らかに放送政策としては間違っているであろう。)

 デジタル放送を推進する立場の人たちには悪いが、混乱を避けるためにはアナログ停波の中止(最低限延期)が私にはどうしても必須と思われる。
 デジタル放送移行で儲けた人たちよ、もう十分に儲けたであろう、そろそろ本当に国民のことを考えてもらえないだろうか。日本の国民は馬鹿ではない。沈む船には鼠も残らない。国民が去った後の放送に一体何が残るというのか。

 今までの混乱と今後予想される混乱の原因はどう考えても、本来最も現実的な判断をするべき政策担当部局(日本の政官業が複雑に絡み合った無責任システムは、誰が政策決定の責任者なのか常に分からなくなるように出来ているのだが、やはりその中心は官僚だろう)が、既得権益(利権)の維持(拡大)と原則論にこだわり、本当の現実を見てこなかった所為であるとしか私には思えない。
 以前から、官製大プロジェクトの問題はつとに指摘されてきたところ(池田信夫氏の記事参照)であるが、その錚々たる歴史の中に地デジの名が刻まれるのは時間の問題であると私には思われる。その足を引っ張ったのは明らかにコピーワンス問題であり、私は、4年と経たないうちに、あらゆる放送に暗号化とコピー制御をかけるという壮大な実験に失敗した国として、日本は世界放送政策史上にその名を残すことになる気がしてならない
 私の予想が誤っているとしたら、それは喜ばしいことである。別に私も余計に不安を煽る気はさらさらないので、時間も限られている中、総務省には是非、上の様な層がそれぞれどれくらいいるかとその将来予想をきちんと調査した上で、現実的な対応をしてもらいたいと思う。

 なお、池田氏の記事にもあるような、いわゆる「日の丸プロジェクト」が、知財政策のみならず、日本の政策を歪めてきたこと、今後も歪めていくであろうことは想像に難くない。折角、最近はインターネットで何でも調べられるようになっているので、番外シリーズとして、地デジのみならず、様々な官製大プロジェクト史についても、自分なりに調べたことをまとめて行きたいとも思っている。

 折角勉強しているので、本当は特許の話なども書きたいのだが、ユーザーから見たときの問題点ということでは、あまりにも著作権の問題が大きので、まだしばらくは著作権の話を中心に書いて行きたいと思う。

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