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2007年11月21日 (水)

第27回:知財政策なき知財本部(と知財事務局)

 文化庁のパブコメの話の方に気を取られていた中、ついこの月曜の日経の夕刊に分野別知財戦略の記事が出たので、内閣官房に、知財事務局(正式名称は知的財産戦略推進事務局)という部署があったことを思い出した。ここが、知財本部(正式名称は知的財産戦略本部)の事務局として、知財計画(正式名称は知的財産推進計画)という分厚い報告書を毎年作っているのである。

 最新の知財計画2007などを見ると、何だかいろいろなことが沢山書いてあって、すごいことをやっていそうにも見えるのだが、著作権の話一つとってみても、実際の著作権法の制度の方向性は文化庁の文化審議会で検討されているので、この報告書と知財事務局に何の意味があるのかは、よくよく考えてみると何だかよく分からなくなってくる。(全省庁で知財関係の政策で今どんな検討がされているかという百科事典としては役に立つので、私のような知財政策ウォッチャーにとっては至極便利であるが。)

 ただ今年も、、来年の知財計画のためであろう、知財本部の下に「知的財産による競争力強化専門調査会」と「コンテンツ・日本ブランド専門調査会」という2つの調査会で検討が進められているので、まず、これらの調査会での検討内容について少し突っ込んでおく。

 前者の「知的財産による競争力強化専門調査会」では、今、分野別知財戦略を策定しようとしているらしい。(今日第3回が開催されたようなので、策定されたとした方が良いのかも知れない。)
 しかし、そもそも特定分野(情報、バイオ、環境、ナノテク)について、これ以上計画を細分化する理由が私にはよく分からない。これらの分野にも天下り先の業界団体は多分沢山あるので、必要なら、そこで適当に知財戦略をまとめて、そこから次の知財計画に入れて欲しいと要望すれば済む話だろう。
 私も概要くらいしか読んでいないのだが、前回(第2回)の資料を見る限り、苦労してまとめたのであろう知財事務局には悪いのだが、知財計画2007と比べても大して新味はなく、税金で作るほどの戦略とも思われない。(別に、どちらでも構わないといえば構わないのだが、この分野別戦略が次の知財計画に統合されるのかもよく分からない点である。)

 それに比べ、後者の「コンテンツ・日本ブランド専門調査会」の方は、やはり著作権が問題になってくるだけやっかいである。この下の「コンテンツ企画ワーキンググループ」で今まで2回ぐらい検討が進められているようだが、ここから何が出てくるのかはさっぱり読めない。

 第2回は参考人ヒアリングをやっていたようだが、第1回の資料の中には「新たなサービス展開に関する現状と課題について」という事務局が作ったとおぼしき資料がある。
 この資料では、文化庁で検討している検索エンジンの話はともかく、放送と通信の融合法制の話と、著作隣接権まで含めて著作権の話をごっちゃにして、あっさりと「著作権法について、放送と通信の区分に基づいて権利関係を規定するのではなく、利用者が享受するサービスの形態や特質に応じて、権利関係を規定する方向で見直すべき」と書いていたり、間接侵害について、これまたあっさりと「インターネット等を活用した新しいサービスが進展しているが、関係者が多数存在し、サービス構造も複雑化していることから著作権侵害になるかどうかあらかじめ明確な基準が必要。このため、法的措置の具体的内容について検討した上で、早急に措置を講ずるべきではないか。」と書かれていたり、実に危ういものを感じさせる。

  これらの点については、次回にもう少し詳しく書いてみたいと思っているが、念のためにここでも突っ込んでおくと、まず、著作権法が、放送と通信の融合法制の話に引きずられることがあってはならないと私は考えている。皆単なる権利制限の話と思っているのかも知れないが、これはインターネット放送局に対して著作隣接権を与える話につながるので、極めて危険である。(インターネット放送局に著作隣接権を与えることなどあってはならない。サービスの形態や特質に応じて権利関係を規定するためには、まず、本当に著作権法上で保護されてしかるべきものとはそもそも何なかということから整理がなされなければならないのである。)
 それから、間接侵害についても、確かに今は直接侵害からの滲み出しで間接侵害を取り扱っているので不明確なところがあるのは確かだが、明確な間接侵害規定を作った途端、権利者団体や放送局がまず間違いなく山の様に脅しや訴訟を仕掛けてくるので、今度はこの間接侵害規定の定義やそこからの滲み出しが問題となり、結局何の解決にもならないだろうと私は考えている。

 募集され次第、知財事務局にも是非パブコメで意見を出したいと思っているが、他省庁と横並びの、ちまちまとしたこのような検討について知財事務局に突っ込みを入れても本当は仕方のない話である。首相を本部長とする日本の知財政策の最高決定機関として、知財本部にはそこでしか決定できないことを決定してもらいたいのだから。

 まず、世界特許構想や模倣品・海賊版対策など世界を相手にしている話については、確かに政府全体の取り組みとして全世界に発信する意味があるだろうが、これだけなら国内から文句はほとんど出ないだろうから、税金で知財事務局に役人を沢山飼っておく意味はほとんどない。
 要するに、知財本部で決定されるべきことは、日本国全体のプロパテント政策の舵取りと修正なのだ

 知財の世界なら、うまくやりさえずればどこでもwin-winの関係を築けるなどということは幻想に過ぎない。知財保護が行きすぎて消費者やユーザーの行動を萎縮させるほどになれば、確実に産業も萎縮するので、知財保護強化が必ず国益につながる訳でもない。最終的に国益になるであろうことを考え、各業界の利権や省益を超えて、政策的に勝ち負けを作らなければならないことが世の中には確実に存在している。このような政策決定こそ知財本部とその事務局が本当になすべきことだろう。(傍目から見ている限りでは、今のところはプロパテント維持のようだが、プロパテント一辺倒では必ず弊害も出てくる。特に、インターネット(情報)の世界では、既に弊害が出始めているように思う。)

 しかし、今は残念なことに、資料などからしても、このようなことを検討できる体制になっておらず、国としての知財政策の検討がほとんど出来ていないことは明らかである。結果として、船頭多くして船山に上るのことわざ通り、知財本部と知財事務局が自ら日本の知財政策の迷走の原因を作っているようにすら思える。
 是非、知財本部と知財事務局には、国の知財政策の最高決定機関としての自覚を持ち、体制の立て直しをしてもらいたいと思う。

 ただ、政官要覧を見ると事務局の幹部が役所からの出向者で占められているので、このような立て直しは不可能かも知れない。政官業学から人をかき集めても本当に大きな視点から知財に関する政策提言が出来る者がほとんどいないということなら、知財本部と知財事務局は、知財政策の舵取りをあきらめていさぎよく店じまいをした方が良い

 ついでだが、総務省への突っ込みもここに書いておく。11月19日に開催された「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会(第19回)」の配布資料中の「情報通信ネットワーク上のコンテンツ分類(案)」を見て私は目を疑ったのだ。こんな内容のない資料を最終取りまとめに向けた会議の資料として出してくるとはふざけるにもほどがある。あのパブコメ募集は一体なんだったのか。次回にでもこれ以上検討しない旨の最終報告書をまとめて、こんなふざけた研究会は即刻終わりにしてもらいたい。

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コメント

はじめまして。

総合的法体系〜の話ですが、あの図は、「議事非公開」(利害関係が熱すぎるテーマなので、委員にプレッシャーがかかるのを防ぎたい、という意図なのでしょう。それが正しいかどうかはともかく)の中で、重要なシグナルですよ。その他の資料は、仮に存在していても現時点においては非公開ということだと思います。

図のコンテンツ分類は、それ自体を法に組み込むことについて、パブリックコメントにおいても批判が多かったものですが、その枠組自体は維持するつもりだ、ということがこの図だけでわかります(ただし、線引きの基準や、各領域での規制内容は公表されていない)。

一般メディアサービスとオープンメディアの区別がある、ということは、例えばCS放送コンテンツが一般Webサイト並となることはないことを意味します(が、有名動画サイトがどうなるかは不明)し、オープンメディアと公然性のないコンテンツの間に線が引かれているということは、一般Webサイト等に対して(実質的な意味において現状より厳しくなるかどうかは自明でないにしても)なんらかの規制を設ける前提がある、というふうに読めます。

投稿: 崎山伸夫 | 2007年11月23日 (金) 02時45分

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