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2007年10月27日 (土)

第12回:著作権国際動向その2:欧州連合(補償金制度改革)

 次に、2006年の欧州での補償金制度改革の検討を紹介しておこう。ネットには、この検討において提出された膨大な資料が公開されており、膨大すぎて読めないくらいであるが、少なくとも真面目に補償金問題に取り組もうと思う者にとっては、極めて面白い資料である。
 文化庁の中間整理では、極簡単に経緯について触れられているだけで、このような資料について検討した形跡が全くないのだが、自分たちに都合の良いところだけ適当につまみ食いしているようにしか見えない調査に無駄に予算を使うより、この資料を全て翻訳して、詳細に検討した方がよほど国際動向が分かると思えて仕方がない。

 例えば、利害関係者に対する質問状の第11ページに、欧州各国での補償金賦課の状況が出ているが、バラバラも良いところである。確かにこれでは域内経済に少なからぬ影響が出ており、EUとしては統一したくて仕方がないに違いない。しかし、保護期間の延長問題と同じく、統一するとしたら、現実的には保護レベルの高い方に合わせるしかないと思われるので、ヨーロッパにおける補償金拡大の動きを、これだけをとらえて世界動向だと断じることは明らかな間違いである。

 同じく例えばであるが、欧州のメーカー団体が集まって作っている補償金制度改革協議会(Copyright Levies Reform Alliance)の資料(別なところに簡単なプレゼン資料が載っているので、そちらにリンクを張った)には、欧州全体で補償金が現在二十億ユーロ(3000億円程度)であるが、現在検討されているものを加えると、これが倍以上に跳ね上がりかねないこと、スキャナー付きプリンタにまで課金している、あるいは課金を検討している国が数多くあること、国によって課金額が全く違い、60GBのiPodではイタリアのような定率(3%)の課金から、2~180ユーロまでの幅があることが書かれている。このような状況一つとっても、補償金の妥当な基準はどこにもないことが分かるだろう。
 欧州には大きな家電メーカーがあまりないこともあり、この制度は、建前はどうあれ、実質的に国外(メーカー)から国内(の著作権団体)に金を還流するための政策的手段として使われてしまっているのだ。このような裏事情も、本当に大きな政策的観点からは決して無視されるべきことではない。少なくとも、著作権の建前に誤魔化されることなく、日本が家電大国であることも考えて、日本の大きな政策判断は下されるべきであろう。

 また、欧州消費者組合(Bureau European des Unions de Consomateurs)の意見書から、消費者の取る立場が極めて明確に現れているので、その概要の抜粋を以下に載せておこう。(翻訳は拙訳。ほとんど全部に付けてしまったが、赤字強調も私によるもの。)

「There are various problems with current copyright levy schemes:
・The levies are not based on the harm caused to rights holders from private copying,
・The levies do not take into account technical restrictions on copying or any payment already made for the right to copy, and
・Levies are applied to copy equipment and storage devices that are not being used for private copying.

At the same time, the current levy system is not providing consumers with the right of privacy and anonymous consumption that could make it more attractive and was one of the main reasons for introducing such a system.
BEUC recommends:
・Levy systems should reflect the actual harm caused by private copying and not be based on assumptions;
・Consumers should have a clear right to copy;
・Possible solutions to the problem of illegal file sharing that respect consumers’ privacy should be discussed.

 今の著作権の補償金制度には次のような様々な問題がある:
今の補償金は、私的複製によって権利者にもたらさえる損害に基づいていない
今の補償金は、複製の技術的制限、あるいは複製する権利のために既になされている支払いを考慮していない
今の補償金は、私的複製に用いられない複製機器と媒体にも課されている

 同時に、今の補償金制度は、このような制度を導入する主な理由の一つであり、これをより好ましいものとする、プライバシーと匿名での消費の権利を提供していない
 我々が求めるのは次のことである。
補償金制度は、私的複製によってもたらされる実害を反映するべきであり、仮定に基づいていてはならない
消費者は明確に複製の権利を持つべきである。
違法ファイル交換の問題については、消費者のプライバシーを尊重する形での合理的な解決策を検討するべきである。」

 この消費者の意見はあまりに明快なので注釈を加えるまでもないだろう。

 このような欧州の消費者やメーカーの意見書を読むと、全世界で今の補償金制度は消費者・メーカーに反対されていることが分かる。
 この欧州での補償金改革は結局頓挫した訳だが、少なくとも、このような世界的な消費者とメーカーの意見について、全く触れようとしないのは、明らかに文化庁の怠慢だろう。

 また、上の欧州消費者組合の意見書の第3頁に書いてあるように、ノルウェーは、著作権指令の履行にあたり、国費によって権利者に公正な補償を与えており、文化庁の中間整理で書かれているように、全ての国で、機器・媒体に補償金を課すという制度設計が取られている訳でもない。
 現在、日本では、コンテンツ産業振興を名目に少なくない税金が投入されている。この国費をコンテンツ業界はもらって当然のように考えているのかも知れないが、これは、大きくとらえれば、著作権業界のために本当に薄く広く国民に補償金が課されている状況であることに他ならない。このような、特定の業界に対する税金投入の意味、今後の国費による補助事業のあり方も含め、より大きな観点から、私的録音録画補償金問題は考え直されるべきであると私は考える。

 次回からも、文化庁が教えない著作権の国際動向について書いて行くつもりである。

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受信: 2007年11月23日 (金) 00時29分

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