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2007年8月22日 (水)

第5回:放送に関する著作権問題

 少し時間が空いてしまったが、放送に関する著作権問題の話を書いておこう。

(1)放送法と著作権法における「放送」の定義
 まず、放送法における「放送」の定義については、前回も書いたが、以下のようになっている。
「放送」の定義:公衆によって直接受信されることを目的とする無線通信の送信をいう。
 これが著作権法では、
「放送」の定義:公衆送信のうち、公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送信をいう。
となる。
 ちなみに、著作権法の公衆送信は、
「公衆送信」の定義:公衆送信 公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(中略)を行うことをいう。
である。有線放送についても、それぞれの法律に同様に定義されている。

 読んですぐ分かるように、著作権法においては、放送には内容の同一性と同時性の要件が含まれている。 実際、この定義だけなら考えるとさほどの影響もないように思われるかも知れないが、放送に関することで著作権が問題となる場合、実はこの違いがそもそも問題の根であり、この定義の違いをどうにかしない限り、上っ面の糊塗でいくら当座はごまかしても、もめ事の種になり続けるだろう

 その上っ面の糊塗として、最近ではIPマルチキャスト放送に関する著作権法改正のゴタゴタがあったので、このことについて簡単に紹介しておこう。
 そもそもIPマルチキャスト放送はネット技術を用いた放送の一種であるが、これが放送法では「放送」に該当するにも関わらず、著作権法では該当しないということがゴタゴタの発端である。なぜ、この差でゴタつくかと言うと、著作権法で有線放送に該当すると放送局が放送番組を再送信するときに実演家の許諾が不要になっていたからである。(何故不要だったかというと、条件不利地域における再送信を考慮して優遇措置が取られたということであったらしい。)
 また、なぜIPマルチキャスト放送が「有線放送」でないかと言えば、ネット技術を利用しているので、「同一の内容の送信が同時に受信され」ているとは厳密には言えないかである。
 その結果、IPマルチキャスト放送事業者が著作権法上の不公平について問題にし、2011年の地上デジタル放送への移行を前にデジタル放送の再送信を推進したい総務省の思惑とも合致した結果、昨年の文化審議会法制問題小委員会で委員にすら検討内容がよく理解出来なかったほどのスピード審議によって方向性が出され、同時再送信について、IPマルチキャスト放送についても有線放送についても同等に、実演家は報酬請求権を行使できるものとされた。(本当は、レコード製作者の権利もあるのだが、ここでは省略。)

(著作権法改正前)
有線放送:「有線放送」であって、同時再送信の場合、実演家の許諾は不要
IPマルチキャスト放送:「公衆送信」であって、同時再送信の場合でも、実演家の許諾が必要

(法改正後)
有線放送:有線「放送」のまま。同時再送信の場合、実演家の許諾は不要だが報酬を支払うことが必要
IPマルチキャスト放送:「公衆送信」のまま。同時再送信の場合、実演家の許諾は不要だが報酬を支払うことが必要

 ここで、条文を引くことはしないが、この法改正は、著作権法の放送の定義をいじったのではなく、あくまでIPマルチキャスト放送を公衆送信としたまま、公衆送信であっても、放送番組の同時再送信の場合に限って、実演家の権利を制限したということに注意していただきたい。さらに、有線放送の場合は、無権利だったものが、報酬請求権が与えられているので、権利の切り上げになっていることにも注意していただきたい。
 法制問題小委員会の実演家代表委員は、しきりと、これは権利の切り下げであるため受け入れは困難であるとの意見を述べていたが、最後、有線放送について報酬請求権化することで、表向きはどうあれ、これを結構あっさりと受け入れた。結局、表向きはどうあれ、彼らは実ビジネスがいまだ存在していないIPマルチキャスト放送における権利の引き下げを受け入れることで、実ビジネスの存在している有線放送における権利の引き上げを手に入れたのだ。当然のことながら彼らの収入はアップすることになる。このこと一つとって見ても、権利者団体にあるのは、理念ではなく算盤勘定であることはよく分かるだろう。権利者団体がビジネスを行っている利権団体である以上、この行動を非難することは出来ないが、我々国民はこのような利権団体の表向きの主張に騙されないようにしなければならない。

(2)著作隣接権者としての放送局の問題
 さて、まだ大きな問題として顕在化はしていないが、今後十年、二十年のスパンで政策的話題になりそうなこととして、放送局が隣接権者として著作権法上の権利を持っているということがあげられる。
 すなわち、放送を業として行う放送事業者は、その放送に係る音又は影像を複製する権利、再放送権、送信可能化権などを専有している。なぜか、放送の内容に対する創作行為に関与せずとも、放送局は放送を行うだけで放送番組について複製等の許諾権が手に入る。誰かに違法に複製されたら、本当の創作者である著作権者が権利行使を行えば良いはずであるのにだ。法律制定当時は、単なる流通の保護が文化の発展に多少の寄与することもあったのかも知れないが、流通経路が多様化している今、何故放送を著作権法上優遇しなければならないかの根拠はほぼ無くなっていると言っても差し支えない。
 法律の目的にも入ってしまっており、世界的にも条約の議論などもあるので、この権利を無くすことは不可能に近いが、この問題もじりじりと様々な議論に響いてくるに違いない。(そのうち詳しく書きたいと思うが、レコード製作者の権利についても同じことが言える。)

 今後も様々なことで放送に関する著作権のことが話題になっていくことだろうが、その根本は常に上記の2点から派生していると思ってまず間違いはなかろう。

 さて、今総務省の答申がパブコメにかかっている最中ということもあり、知財そのものではないが、放送関連トピックの一つとして、次回はコピーワンス問題について書こうかと思う。

 そういえば、「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会 中間取りまとめ」に対する意見募集の結果が出ていたので、念のためここにもリンクを張っておく。匿名だった私の意見も載っているのには少し感心したが、反映されるかどうかは全く疑わしいのは第1回で書いた通り。個人の意見はほとんど規制反対だったのだが。

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