2014年8月25日 (月)

第318回:中国と台湾の著作権法改正案(一般フェアユース条項関連)

 また条文は変わるのではないかと思っているが、中国と台湾で並行して著作権法改正の話が動いており、丁度良いので両方の現時点の案をまとめて紹介しておきたいと思う。

(1)中国の著作権法改正案
 数年前からパブコメが何度かあったが(第1回は2012年4月、第2回は、2012年7月)、最近ではこの2014年6月6日から7月5日までの期間で著作権法改正案がパブコメにかかっていた(中国法制弁公室の意見募集ページ参照)。

 その解説(doc)をざっと見ただけでも、法改正事項は、例えば、25年の保護期間の実用芸術著作物の導入、著作権契約関連規定の整備、プロバイダーの責任に関する規定の導入、権利の複数人への販売懲罰的賠償規定の導入など多岐にわたるのだが、ここでは特に、この最近の著作権法改正案(doc)の中から、私が強い関心を持っている権利制限に関する部分を以下に訳出する。(以下は全て拙訳。)

第4章 権利制限
第43条 
第1項 以下の場合において著作物は、著作権者の許可なく、使用料を支払うことなく使用できる、ただし、著作者の名前又は名称、著作物の名称、著作物の出所を明示し、かつ、本法律により著作権者が享有するその他の権利を侵さない場合に限る:
(1)個人の学習、研究のために他人の既に公表された著作物の一部を複製すること;
(2)著作物の紹介、評論のため又は問題の説明のために、著作物中に他人の既に公表された著作物を適切な形で引用すること、ただし、引用部分が引用著作物の主要な又は実質的な部分を構成していてはならない;
(3)報道のために、新聞、雑誌、ラジオ、テレビ、ネット等の媒体において既に公表された著作物を必要な限りにおいて再現又は引用すること;
(4)新聞、雑誌、ラジオ、テレビ、ネット等の媒体が他の新聞、雑誌、ラジオ、テレビ、ネット等の媒体において既に公表された政治、経済、宗教問題に関する時事文章を刊行又は放送すること、ただし、著作者が使用を許さないことを表明した場合はこの限りでない;
(5) 新聞、雑誌、ラジオ、テレビ、ネット等の媒体が公衆向けの集会で公表された談話を刊行又は放送すること、ただし、著作者が使用を許さないことを表明した場合はこの限りでない;
(6)学校の教室における教育又は科学研究のために、既に公表された著作物を翻訳又は少量複製すること、ただし、教師又は科学研究者の使用に供することはできるが、出版することはできない;
(7)国家機関が公務を執行するために合理的な範囲内で既に公表された著作物を使用すること;
(8)図書館、文書館、記念館、博物館、美術館等が原本の陳列又は保存の必要性ために収蔵している著作物を複製すること;
(9)既に公表された著作物を無料で上演すること、ただし、その上演が公衆向けに費用を取るものでなく、上演者に報酬を支払わず、その他の方法により経済的利益を得ない場合に限る;
(10)室外の公共の場所に置かれた芸術作品は模写し、描き、撮影し、録画し又は複製することができる、ただし、その芸術作品と同じ方法によって複製、陳列又は公衆送信することはできない;
(11)中国の自然人、法人又はその他の組織が既に既に公表された中国語によって創作された著作物を少数民族語の著作物に翻訳し、中国国内で出版すること;
(12)既に公表された作品を視覚障害者のための出版物とすること;
(13)その他の状況。

第2項 前項規定の方式による著作物の使用は、著作物の通常の使用に影響を与えてはならず、著作者の正当な利益を不当に害してはならない。

 現行の中国著作権法と比べると分かるが、(1)から(12)までにほとんど違いはなく、ここで(13)としてその他の状況という項目を追加しようとしている点が特に注目すべき点である。この(13)にかかっている条件は、著作物の通常の使用に影響せず、著作者の正当な利益を不当に害しない場合に限るというもののみで、中国もこのような形で実質的に一般フェアユース条項を入れようとしていることが分かるのである。

 この中国版一般フェアユース条項は2012年7月の第2案から入ったもので、前回のパブコメを経てどうなるかと思っていたものだが、今のところ無事残っており、このまま行けば、中国もフェアユース国となる可能性が高いのではないかと私は思っている。

(2)台湾の著作権法改正案
 台湾の方も、この2014年4月24日に台湾知的財産局が法改正の第1案を公表し、直近で8月13日まで5回にわたり公聴会が開かれているという状況にある。

 この4月時点の著作権法改正案(doc)を読むと、定義規定の整理や孤児著作物のための裁定制度の導入、権利登記関係規定の導入も含まれているなどやはり大幅な改正案となっているが、権利制限関連ということでは、特に権利制限を扱っている第4章(第4款)で、立法行政や教育、図書館等のための権利制限もかなりの拡充を図ろうとしているのが分かる。

 ここで、台湾で既に導入されている一般フェアユース条項との関係では、新しく作られようとしている条文の中に、

第63条
第1項
 撮影、録音、録画又は類似の方法で著作物を創作する者は、他人が既に公表した著作物の附帯利用ができる。
第2項 前項の附帯利用は、それが創作の主要な目標ではなく、分けて利用することが困難な場合に限る。

という写り込みに関するものや、

第64条
第1項
 風刺又はパロディの目的で、既に公表された著作物を利用できる。
第2項 前項の規定により著作物を利用する者は著作者の名前を省略することができる。

というパロディに関する権利制限条項などが含まれているのが特に気になるところである。

 既に書いた通り台湾はフェアユース国となっている訳だが、権利制限の一般条項を入れたからと言ってその後の立法による調整が必要なくなる訳ではない。一般条項には一般条項の、個別条項には個別条項の意味があるのであり、一般条項に全てを任せれば良いとか、一般条項で全て片づくと思うのは間違いだとか、そうした議論がナンセンスなのはアメリカの状況を見ても、このように台湾における検討を見ても分かる話である。(なお、台湾で一般フェアユース条項についてどのような判例が存在しているかは、第269回でまとめて書いた。)

 このように台湾や韓国に続いて中国まで一般フェアユース条項を入れようとし、加えて台湾では権利制限をさらに拡充しようとしているという状況では、極めて残念ながら、著作権法の権利制限において日本がアジア主要国の中で最も遅れた国と言われる日もそう遠くはないのだろう。

 上で取り上げたのはあくまで改正案であり、中国も台湾もさらに法改正の検討を進めている段階なので、さらに条文は変わるのではないかと思うが、今後の動きについてはまた時期を見て紹介できればと思っている。

(2014年8月26日夜の追記:中国の法改正案の列挙を項としていたのはあまり適切な訳ではないと思ったので、原文通り列挙を数字入り括弧の形に直し、上位を項とする形に改め、合わせ翻訳に少し手を入れた。)

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