2015年6月21日 (日)

第338回:知財計画2015の文章の確認

 先週6月19日に知的財産戦略本部会合が開かれ、知的財産推進計画2015(pdf)概要(pdf)工程表(pdf))が決定された。

 例によって、作ることに何の意味があるのか分からない検討項目集に過ぎないが、現時点で政府が何を考えているのかを見るのには便利な資料ではあるので、ここで知財計画の文章が今年どうなったかを見ておきたい。(去年の知財計画2014の内容については第315回、今年私が出したパブコメについては第336回参照。なお、知財本部会合の資料は、まだ案がついたままの状態だが、本部会合での変更はなかっただろうし、この資料で見ても問題ないだろう。)

 いつも通り地道な運用改善に関する項目を飛ばして法改正に関わる部分を抜き出して行くと、まず、前回取り上げた知財訴訟制度の見直しについて、第18ページに、

(知財紛争処理システムの機能強化に向けた検討)
・我が国の知財紛争処理システムの一層の機能強化に向けて、権利者と被疑侵害者とのバランスに留意しつつ、以下の点について総合的に検討し、必要に応じて適切な措置を講ずる。
−証拠収集手続について、侵害行為の立証に必要な証拠収集が難しい状況にあることに鑑み、証拠収集がより適切に行われるための方策について検討する。
−損害賠償額について、グローバル市場の動向を視野に入れつつ、ビジネスの実態を反映した損害賠償額の実現に向けた方策について検討する。
−権利の安定性について、我が国産業のイノベーション創出に向け、権利の付与から紛争処理プロセスを通じた権利の安定性を向上させる方策について検討する。
−差止請求権の在り方について、標準必須特許の場合、PAEによる権利行使の場合について、特許権の価値に与える影響も考慮し、検討する。
(短期・中期)(内閣官房、経済産業省、法務省)

という項目が入った。複数の省庁の名があげられており、どこで検討が行われるのか良く分からないが、ここに書いてあることからすると、今年、前回書いた通り知財訴訟制度について何かしらプロパテント方向での検討がさらに進められるのだろう。

 著作権法については、第42ページで、

(持続的なコンテンツ再生産につなげるための環境整備)
・クリエーターへ適切に対価が還元され、コンテンツの再生産につながるよう、私的録音録画補償金制度の見直しや当該制度に代わる新たな仕組みの導入について文化審議会において検討を進め、結論を得て、必要な措置を講ずる。(短期・中期)(文部科学省、経済産業省)

(新しい産業の創出環境の形成に向けた制度等の検討)
・インターネット時代の新規ビジネスの創出、人工知能や3Dプリンティングの出現などの技術的・社会的変化やニーズを踏まえ、知財の権利保護と活用促進のバランスや国際的な動向を考慮しつつ、柔軟性の高い権利制限規定や円滑なライセンシング体制など新しい時代に対応した制度等の在り方について検討する。(短期・中期)(内閣官房、文部科学省、関係府省)
・サイバーセキュリティに関連する産業の発展に向け、例えば著作権法におけるセキュリティ目的のリバースエンジニアリングに関する適法性の明確化等について検討を行う。(短期・中期)(文部科学省)

(教育の情報化の推進)
・デジタル化した教材の円滑な利活用やオンデマンド講座等のインターネットを活用した教育における著作権制度上の課題について検討し、必要な措置を講ずる。(短期・中期)(文部科学省)
・デジタル教科書・教材の位置付け及びこれらに関連する教科書検定制度の在り方について、2016年度までに導入に向けた検討を行い結論を得て、必要な措置を講ずる。当該検討を踏まえつつ、関連する著作権制度等の在り方についても併せて検討を行い、速やかに結論を得る。(短期・中期)(文部科学省)

(アーカイブの構築と利活用の促進のための著作権制度の整備)
・美術館等が所蔵する著作物に関し、アーカイブ化のための複製が認められる施設の範囲の拡大や解説・紹介のために当該著作物のデジタルデータの利用を可能とすることについて具体的な制度の検討を行い、法改正が必要な事項については次期通常国会への法案提出も視野に検討し、法改正を必要としない事項に関しては本年度内に結論を得て、必要な措置を講ずる。(短期)(文部科学省)
・孤児著作物を含む過去の膨大なコンテンツ資産の権利処理の円滑化等によりアーカイブの利活用を促進するため、著作権者不明等の場合の裁定制度における補償金供託の見直しや裁定を受けた著作物の再利用手続の簡素化等について検討し、法改正が必要な事項については次期通常国会への法案提出も視野に検討し、法改正を必要としない事項に関しては本年度内に結論を得て、必要な措置を講ずる。(短期)(文部科学省)

という形の記載になった。

 この記載を去年と比べると、権利制限に関して、クラウドサービスという言葉こそなくなったものの、「柔軟性の高い権利制限規定」について検討すると再び多少踏み込んだ記載になった。ただし、この部分がいくら一般フェアユース条項向きに多少踏み込んだ記載になったとしても、このような権利制限について検討するのはいつも通り文化庁だろうと思われるので、大して期待はできない。

 ここで、リバースエンジニアリングについては実に7年ぶりの言及である(知財計画2008の内容については第103回参照)。デジタル教科書に関する項目はほぼ去年通りだが、アーカイブと著作権制度に関しては、文化庁での検討を受けてアーカイブ化のための複製が認められる施設の範囲の拡大等に関する項目が1つ追加されている。なお、私的録音録画補償金制度に関する項目も相変わらずそのまま残っている。

 そして、条約交渉に関しては、第53ページに、

(通商関連協定等を活用した知財保護と執行強化)
・自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)等の二国間・多国間協定を通して、知的財産の保護強化、模倣品・海賊版対策を積極的に取り上げ、知的財産制度の整備と実効的な法執行の確保に努める。特に、TPP協定については、産業界を始めとした関係者の意見を踏まえつつ、国益にかなう最善の結果を追求する。(短期・中期)(内閣官房、外務省、財務省、経済産業省、文部科学省、農林水産省)
・ACTA(偽造品の取引の防止に関する協定)の早期発効に向け、各国への働き掛けを継続して実施する。(短期・中期)(外務省、経済産業省、文部科学省、農林水産省、総務省、法務省、財務省)

と書かれ、去年と比べて大きな変化はなく、TPP交渉などについて日本政府のスタンスに変更がないことがはっきり分かる。ただ、言わずもがなかも知れないが、強いて言うなら、項目の記載に「知的財産の保護強化、模倣品・海賊版対策を積極的に取り上げ、知的財産制度の整備と実効的な法執行の確保に努める」といった記載が追加されていることからFTAについてプロパテント方向での交渉を行っているだろうことが、また、「早期発効を目指す」といった記載が削られていることから海賊版対策条約(ACTA)についてはさすがに日本政府も弱気になっているだろうことが読み取れる。

 海賊版対策についても、同じく第53ページに、

(正規版コンテンツの流通拡大と海賊版対策)
・各国取締機関等と連携した対策と並行し、「マンガ・アニメ海賊版対策協議会」と経済産業省が一体となり、侵害が顕著な海外の配信サイトなどに違法アップロードされたコンテンツの迅速な削除要請、ユーザーを正規版に誘導するサイトの運営・改善、国内外の視聴者への啓発活動を一体的に実施する。(短期・中期)(経済産業省)

(インターネットを通じた知財侵害への対応)
・インターネットを利用する消費者への模倣品・海賊版被害の発生・拡大防止のため、消費者への注意喚起を行うほか、検索結果から違法サイトの表示抑止要請、模倣品・海賊版を扱うサイトにおいて広告出稿の抑止要請、銀行等と連携した決済処理対策、セキュリティソフト等を通じた注意喚起などの取組を行う。(短期・中期)(経済産業省、消費者庁)
・インターネットを利用したオークションや電子商取引における模倣品・海賊版対策として、インターネットサービスプロバイダ(ISP)と権利者等との連携による自主的な削除対応など、民間での取組を促進する。(短期・中期)(内閣官房、経済産業省、総務省、文部科学省、警察庁、消費者庁)
・海外サーバーを含め、インターネット上で国境を越えて我が国に対して模倣品・海賊版を発信するサイトや行為に対する措置の在り方について検討を行う。(短期・中期)(内閣官房、関係府省)

と書かれている。これも今後どこで検討が行われるのか良く分からないが、この中で最後に書かれている、海外の海賊版サイトに関する措置の検討については特に注意が必要だろう。今までの取り組みの延長線上にある話を地道に進めてくれるだけなら良いが、この検討でブロッキングなどのネット検閲が言い出される可能性が極めて高いと私は見ているのである。

 また、海外でのコンテンツ規制に対する緩和の働きかけに関する項目が今年から消えている。もともと何をしているか良く分からなかったものではあるが、このことは、こうした多少なりとも意味のあった取り組みについて日本政府としてはもはや大してやる気がないことを示しているのだろう。

 なお、既に施行済の地理的表示保護法や、まだ未成立だが国会での審議が進んでいる不正競争防止法改正案による営業秘密の保護強化、特許法改正案による職務発明制度の見直しについては周知やガイドラインの策定が行われるという記載になっている。

 言うまでもなく今年の知財政策上の最大のトピックはTPP交渉の行方になるだろうが、このような知財計画の内容を見る限り、今年も政府の検討について大して期待が持てそうにないのは非常に残念である。

 最後に、ついでに書いておくと、知財本部会合に参考資料として出されている、クールジャパン推進会議で取りまとめられたのだろう、クールジャパン戦略官民協働イニシアティブ(pdf)概要(pdf))に至っては、去年の提言(第319回参照)で唯一意味のあった二次創作規制の緩和に関する記載すら消え、実に空疎極まる内容のものとなった。このクールジャパン戦略の中身の頭の悪さときたら、このようについでに言及することすらバカバカしいと思えるほどである。

(2015年7月1日の追記:文章は変わっていないが、案が取れた正式版の知的財産推進計画2015(pdf)が知財本部のHPで公開されたので、ここにリンクを張っておく。)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

«第337回:国連専門家グループのTPP交渉透明化を求める意見他