2016年2月11日 (木)

第357回:文化審議会・著作権分科会・法制・基本問題小委員会の文化庁資料から見るTPP対応著作権法改正案の方向性

 昨日2月10日に文化庁で文化審議会・著作権分科会・法制・基本問題小委員会が開催され、TPP対応のための著作権法改正についての議論が行われた。(NHKの記事、Togetterの審議実況まとめ参照。)

 文化庁のHPにはまだ資料は掲載されていないが、茂木和洋氏がサイトに上げてくれている文化庁資料の環太平洋パートナーシップ(TPP)協定に伴う制度整備の在り方等について(案)(pdf)には、①著作物等の保護期問の延長、②著作権等侵害罪の一部非親告罪化、③著作物等の利用を管理する効果的な技術的手段(アクセスコントロール)に関する制度整備、④配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与、⑤「法定の損害賠償」又は「追加的損害賠償」に係る制度整備の5つの法改正事項の内容が書かれ、合わせて施行期日についても書かれており、法改正案の条文そのものではないが、これは今までの資料の中では一番詳細なものなので、ここでもその方向性を見ておきたいと思う。

(1)著作権の保護期間延長
 順に見て行くと、まず、第2節の「著作物等の保護期間の延長」では、第8ページに、

 著作物等の保護期間の延長に当たっては、延長の対象となる著作物を著作者の死後50年又は公表後50年の経過以前に著作権登録がされたものに限ることや、これから創作される著作物あるいは現在存命の著作者による著作物に限ること、また、少なくとも大正12年以前の著作物についてはすべてについて、昭和20年以前の著作物については登録の申請がなければ、当該著作物を公有とすることや図書館における著作物利用について保護期間の例外を設けることなど、著作物の保護期間を延長する際の制度設計について、本小委員会における意見聴取の場において関係団体より意見が出された。
 保護期間の延長を行うべき対象として、改正時に著作権が存続するにも関わらずそのうち延長の対象とするものを一定の年以降に創作されたものに限定することや著作者の生死により区別することはTPP協定上許容されないものと考えられる。また、延長の対象を著作権登録がなされている著作物に限定することは、TPP協定や我が国がすでに締結している文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約(以下「ベルヌ条約」という。)との関係上困難であると考えられる。また特定の利用目的や利用主体を対象とした著作物等の利用円滑化方策については、保護期間における取扱いではなく、権利制限規定において検討されるべき事項であり、今後の必要に応じて検討を行うことにより対応すべきである。以上のことから、保護期間の延長に当たっては、これらの限定を付すことなく、保護期間内にある著作物について一律にその保護期間を延長することとすることが適当である。

と書かれている通り、特に限定もなく保護期間の70年への延長を是認している。

 ただし、第6〜8ページで、「視聴覚的実演についても音の実演と同様に延長の対象とし、保護期間を実演後70年とすることが適当」、「映画の著作物の保護期間をTPP協定上の義務を超えて延長することの要否及びその在り方については、国際的動向や他の著作物とのバランス、映画の著作物の利用状況等を踏まえて、改めて検討することが適当」、「放送事業者等の権利の保護期間を延長することの要否及びその在り方については、国際的動向や放送の利用状況等を踏まえて、改めて検討することが適当」とされているので、法改正案の方向性としては、ほぼTPP協定の要件通り、実演についても保護期間が延長されるが、映画と放送についてまでは延長されないという整理のようである。

(2)著作権侵害の非親告罪化
 次に、第3節の「著作権等侵害罪の一部非親告罪化」では、「著作権等侵害罪の非親告罪化については、一律に非親告罪化するのではなく、著作権等侵害罪のうちいわゆる海賊行為(著作物等の市場と競合する海賊版による侵害行為)のように、被害法益が大きく、また、著作権者等が提供又は提示する著作物等の市場と競合するため著作権者等の事後追認等により適法化されることが通常想定できない罪質が重い行為態様によるものについて、非親告罪とすることが適当」(第12ページ)とされ、さらに、第13〜14ページで、

 TPP協定においては、非親告罪の対象とすべき範囲が、「故意により商業的規模で行われる」侵害行為に限定されており、また、「商業的規模で行われる」行為には、少なくとも「商業上の利益又は金銭上の利得のために行われる行為」及び「商業上の利益又は金銭上の利得のために行われるものではない重大な行為であって、市場との関連において当該著作権者等の利益に実質的かつ有害な影響を及ぼすもの」が含まれるとされている。非親告罪とすべき範囲は、この趣旨を踏まえ、一定の目的をもって行われた悪質な著作権等侵害行為に限定することが適当である。
 具体的には、侵害者が、侵害行為の対価として利益を受ける目的を有している場合や、著作権者等の利益を害する目的を有している場合であることを要件とすることが考えられる。

 また、TPP協定において、非親告罪とする範囲を、「市場における著作物等の利用のための権利者の能力に影響を与える場合」に限定することができるとされている趣旨を踏まえ、非親告罪の対象とすべき著作権等侵害罪を、著作権者等の著作物等の提供又は提示に係る市場と競合する場合に限定することが適切である。換言すれば、市販されている漫画や小説を基に二次創作作品を作成する等、著作権者等の著作物等の提供又は提示に係る市場と競合しない行為態様については非親告罪の対象外とすることが適切である。
 具体的には、まず、侵害される著作物等は、現に市場において権利者により有償で提供又は提示されている著作物等であることを要件とすることが適当であると考えられる。この点に関しては、関係団体からの意見聴取においても、侵害の対象を既に市販している作品等に限定するべきであるとの意見が示されている。
 また、原作のまま、すなわち著作物等に改変を加えずに著作物等を利用する侵害行為であることを要件とすることが考えられる。加えて、著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合であることを要件とすることが考えられる。なお、権利者の利益が不当に害されることとなるか否かの判断は、著作物等の種類や用途、侵害行為の態様、正規品の提供又は提示の態様など様々な事情を総合的に勘案して、正規品の販売市場との競合性があるか否かによって判断することが適当であると考えられる。この点に関して、関係団体からの意見聴取においても、非親告罪化の対象を海賊行為に限るため「原作のまま」の用語を用いたり、原著作物の市場での収益性に重大な影響がある場合のみに対象を限定したりすべきであるとの意見が示されたところである。
 非親告罪の範囲については、上記の3つの要件を設けることにより、市販されている作品等に対する海賊行為を非親告罪の対象となる一方で、二次創作行為については、原作のまま著作物等を利用する行為に該当せず、また権利者の利益が不当に害されることとなる場合に該当しないため、非親告罪の対象とならないこととなる。

と書かれているので、かなりの限定が加えられそうな様子であるが、対象となる支分権の範囲は複製権侵害だけではなく、「譲渡権侵害や公衆送信権侵害についても非親告罪の対象とすることが適切」(第15ページ)とされ、権利者の範囲についても、「視聴覚的実演に係る実演家の権利、放送事業者及び有線放送事業者の権利を侵害する行為のうち、権利者へ及ぼす被害が大きく、悪質な権利侵害については、他の権利侵害の場合と同様に非親告罪化の対象とすることが適切」(第16ページ)とされている。

(3)アクセスコントロール回避規制
 第4節の「著作物等の利用を管理する効果的な技術的手段(アクセスコントロール)に関する制度整備」では、「アクセスコントロールにより確保される著作権者等の利益は基本的に著作権法による保護の対象とすべきものと評価し、当該手段の回避行為及び回避機器の流通等に一定の救済を認めることが適切」(第20ページ)とされ、さらに、第21ページで、

 一方、アクセスコントロールを回避する行為については、支分権該当行為ではないものの、多くの場合、回避行為そのものがアクセスコントロールにより著作権者等が確保しようとする対価の回収を困難とする点において著作権者等の保護されるべき経済的利益を直接害する行為であると評価できることに加えて、回避後に行われる視聴行為等は支分権該当行為ではない。このため、権利者の利益を保護するため、回避行為に対して民事上の権利行使が可能となるよう、これを保護の対象とすることが適当である。その方法としては、例えばみなし侵害(第113条)の形で保護することが考えられる。制度設計にあたっては、前述のとおり、国民の情報アクセスや表現の自由との均衡に配慮した制度とすることが適当である。

 次に、技術的保護手段の回避に使用される装置等を流通させる行為や公衆の求めに応じて反復継続してこれを回避する行為については、権利侵害につながる準備的行為として著作権者等の利益を害するものと評価できるため、罰則の対象となっているところである(第120条の2)。アクセスコントロールについても、回避行為を保護の対象とする場合は、同様の趣旨が妥当することとなるため、同様に刑事罰の対象とするのが適切である。

 なお、アクセスコントロールの回避行為に対して刑事罰を科すことについては、回避行為は支分権該当行為ではなく、それと同視できるほどの重大性はないと評価されること、当該回避行為の多くが個人で私的に行われるものであることが想定されるところ国民の情報アクセスや表現の自由との均衡を図る必要があること、及び回避装置の流通行為等を別途刑事罰の対象とすることで著作権者等の利益保護が図られることを踏まえ、慎重であるべきである。

と書かれている通り、著作権法においてアクセスコントロール回避規制を導入するべきとしている。

 ただし、例外について、「権利者に不当な不利益を及ぼさない形で行われる回避行為が広く例外規定の対象となり得るような制度設計とすることが適当」(第22ページ)と書かれ、アクセスコントロール規制に対して広めの例外を設けるべきともされている。

(4)配信音源の二次利用に対する使用料請求権の付与
 これは非常にマニアックな話なので、細かな所までは引かないが、第5節の「配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与」において、「配信音源の二次使用について、商業用レコードの場合(第95条第1項及び第97条第1項)と同様に使用料請求権を付与することが適当」(第25ページ)と書かれている。

(5)法定損害賠償
 第6節の「『法定の損害賠償』又は『追加的損害賠償』」では、「今回の制度整備においては、TPP協定の求める趣旨をより適切に反映する観点から、第114条第3項等の現行規定に加えて、填補賠償原則等の枠内で、実際に生じる損害との関係について合理的に説明が可能な額を法定する規定を別途設けることが適当」(第32ページ)とされ、さらに、第32〜33ページで、

 この点、第114条第3項は、「権利の行使につき受けるべき額に相当する額」(使用料相当額)を権利者が損害額として請求することができるとされている。この使用料相当額の算定方法は基本的には個々の事案に応じて異なり得るものであるが、侵害された権利が著作権等管理事業者によって管理されているものである場合は、当該著作権等管理事業者の定める使用料規程がその算定根拠として広く用いられており、基本的に当該規程により算出した額が同項の使用料相当額として認定されている。このような運用がなされている理由としては、著作権等管理事業者の使用料規程は、著作権等管理事業法に則って定められたものであり、実際に当該事業者に権利が委託されている著作物の利用について許諾する際に受けるべき額を示すものであること、及び使用料規程を定めるに当たっての一定の手続が同法上定められていること等が勘案されているためであると考えられる。
 しかし、その点につき同項においては明文上の定めはなく、使用料規程により算出した額を同項の使用料相当額として請求可能であるのか否かは必ずしも明確ではない。また、使用料規程において適用可能な規定が複数存在する場合、いずれの規定を用いて算出した額を同項の使用料相当額として請求できるのかについても明らかではない。

 このような状況に鑑み、また、使用料規程により算出された額は基本的に「権利の行使につき受けるべき額」に相当するものであること、すなわち、当該額は実際に生じる損害との関係について合理的に説明が可能な額であると評価できることを踏まえ、著作権等管理事業者の管理する権利について同項の規定による請求を行う場合においては、当該著作権等管理事業者の使用料規程により算出した額を同項の使用料相当額として請求することができる旨を法律上明記することが適当である。また、この場合において、使用料規程のうち適用可能な規定が複数存在する場合は、算出された使用料額のうち最大のものを請求することができることとすることが適当である。

と書かれており、アメリカなどがこのような法改正で納得するかは良く分からないものの、法定損害賠償については、実質的に現行の損害額推定規定の範囲内で対処するという方向性になっている。

(6)施行期日
 第7節の「施行期日について」では、「TPP協定の締結に向けた制度整備については、既に検討した国内的な制度整備の必要性に加え、これらの事項が国際的な制度標準となることも考慮すべきであること、また、本小委員会における意見聴取においても、利用者団体より、制度整備がTPP協定の発効に先立ち施行されることに強い懸念が表明されていること等を踏まえれば、これらの事項の制度整備を行う改正法の施行については、TPP協定の発効とあわせて実施することが適切である。」(第35ページ)と、さすがに海賊版対策条約(ACTA)の醜態を踏まえたのか、改正法の施行はTPP協定の発効と合わせることが書かれている。

(7)その他(柔軟性の高い権利制限規定)
 また、同資料の第36ページに、「TPP協定を契機としていわゆる『柔軟性の高い権利制限規定』の導入を求める声が関係団体から複数寄せられたところであるが、これに関連して、新産業創出環境の形成をはじめとするデジタル・ネットワークの発達に対応した権利制限規定の見直しについて、昨年本小委員会に設置した『新たな時代のニーズに対応した制度等の整備に関するワーキングチーム』において検討が進められている。同ワーキングチームにおいては、文化庁の行った著作物等の利用円滑化に関するニーズの募集に寄せられた広範なニーズを基に整理された課題の解決に向けた検討が始められているところであり、引き続き着実に検討を進めることが期待される。」と、柔軟性の高い権利制限規定についての記載もあるが、検討を進めているのが文化庁という時点で正直あまり期待は持てない。

(8)法改正事項の内容のまとめ
 資料に書かれた上の法改正事項の内容をまとめると次のようになるだろう。

保護期間延長
 著作物と実演について保護期間を70年に延長、ただし、映画と放送については延長せず

非親告罪化
 侵害者が、侵害行為の対価として利益を受ける又は著作権者等の利益を害する目的で、現に市場において権利者により有償で提供又は提示されている著作物等を、改変を加えず利用する侵害行為について、かつ、著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合について非親告罪化

アクセスコントロール回避規制
 著作権法第113条のみなし侵害規定の改正によりアクセスコントロール回避行為に対して民事上の権利行使を可能とし、合わせてアクセスコントロール回避に使用される装置等を流通させる行為や公衆の求めに応じて反復継続してこれを回避する行為に刑事罰を付加、ただし、アクセスコントロールの回避行為そのものは刑事罰の対象とせず、権利者に不当な不利益を及ぼさない形で行われる回避行為を例外とする

配信音源の二次利用に対する使用料請求権の付与
 商業用レコードの場合と同様に配信音源の二次使用について使用料請求権を付与

法定損害賠償
 使用料相当額を損害額と推定する著作権法第114条第3項において、著作権等管理事業者の使用料規程により算出した額を使用料相当額として請求できることを明記、また、適用可能な規定が複数存在する場合は算出された使用料額のうち最大のものを請求できることとする

 これらの内、多くの限定が入った非親告罪化と実質的に現行法の枠内で対処することとされている法定賠償については悪影響がかなり低減されると思われ、法改正の施行をTPP発効と合わせるとしたことで国内改正まで行ったにもかかわらずいまだに日本しか批准していないACTAの二の舞は最低限避けられると思われるものの、全ての法改正事項についてACTAの時同様結論ありきで、全てTPP批准のためという以外にほとんど法改正の理由はないと言って良く、このような方向性の法改正案は極めて大きな問題を含むものである。前に書いた通り、恐らくもはや政府に対して意見を提出する機会はなく、次の舞台は国会における審議になるのではないかと思っているが、このような大きな問題を含む著作権法改正案、TPP関連法改正案が国会を通らないことを、TPP協定の批准、発効がなされないことを私は心の底から願っている。

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