2018年6月17日 (日)

第395回:知財計画2018の文章の確認

 先週6月12日に、知的財産戦略本部で、今年の知的財産推進計画2018が決定され、公開された。知財計画の内容はいつも通り寄せ集めの施策項目集に過ぎないが、加えて今年はさらに意味不明の知的財産戦略ビジョンも同時に決定されている。

 先に、この知的財産戦略ビジョン(pdf)について少しだけ触れておくと、その中身は徹頭徹尾駄弁の羅列に過ぎず、政策として何をしたいのか全く理解不能であり、今後何かの意味を持つとは到底思えないが、第49ページに、

リーチサイト等を通じた侵害コンテンツへの誘導行為について法的措置が可能であることの明確化や、サイトブロッキングの法的根拠置の明確化等、悪質な海賊版サイトへの多層的かつ実効性ある対抗手段導入に取り組む。

と書かれていることから、知財本部として犯罪対策閣僚会議とともに緊急対策で決定したところの(第392回参照)、サイトブロッキング要請をとにかく正当化したいのだろうことは読み取れる。

 知財計画2018(pdf)ポイント(pdf))自体も何のために毎年作っているのか良く分からないものだが、政府内の検討状況を知るには便利なまとめなので、ここで、およそどうでもいいお題目を飛ばし、法改正に関わるところを中心に抜き出して行く。

 まず、第9ページに、

・IoT、AI、ビッグデータ等の新技術による社会変革(イノベーション)を促進する「デザイン経営」の奨励及びブランド形成に資するデザインの保護等、「デザイン経営」に資する制度の整備等の観点から、意匠制度をはじめ他の知的財産権制度の在り方について検討し、その結果を踏まえて、法改正を含めた必要な措置を講ずる。(短期、中期)(経済産業省)

と、意匠法改正の具体的な方向性までは書かれていないが、前回取り上げた経産省・特許庁の産業競争力とデザインを考える研究会の報告書を受けた記載が盛り込まれている。

 次に、第10ページには、

・中小企業による知財活用を促進するため、平成30年度特許法等改正によって導入される中小企業の特許料等の一律半減について広く周知するととともに、減免申請手続きの簡素化についても検討する。(短期、中期)(経済産業省)

と、今回の特許法改正の周知の話が出ている。

 第11ページには、

・種苗法における侵害の立証の適正化、権利範囲の明確化、品種登録情報へのアクセスの在り方などについての検討をさらに進めるとともに、職務育成品種の帰属、異議申立などの在り方についても検討を行う。(短期、中期)(農林水産省)

・我が国で開発された植物品種の海外への流出に対応するため、海外への品種登録出願の支援や、重要な品種についての国内での品種保護の在り方について、必要に応じ制度的な手当も含め検討する。(短期、中期)(農林水産省)

・日EU経済連携協定(EPA)に対応し、より高いレベルで地理的表示の保護を図るため、広告・インターネット販売等のサービス分野も地理的表示の保護対象とし、現行法では無期限に認められている先使用期間を制限すること等を内容とする特定農林水産物等の名称の保護に関する法律の改正を行う。(短期、中期)(農林水産省)

・種苗法に基づき品種登録出願された品種の名称が、第三者により悪意で商標出願される問題について、対応策を検討する。(短期)(経済産業省、農林水産省)

と、種苗法と地理的表示保護法に関する項目が4つ並び、今年はこれらの法律の改正検討もさらに進められそうである。

 上でも書いた緊急対策の決定がつい最近あったところの、私が一番注目している海賊版対策については、第19~20ページに以下のように書かれている。

・インターネット上で流通する模倣品・海賊版対策について、有識者及び関係府省における検討の場を設け、各権利者、関係事業者等とも連携しつつ、正規版等の流通の在り方を含む模倣品・海賊版対策について、その実態や官民の取組状況を共有するとともに、サイトブロッキングに係る法制度整備や抜本的な模倣品・海賊版対策に係る論点の検討等を含めた、今後の対策の在り方や方向性を総合的に検討する。(短期、中期)(内閣府、警察庁、総務省、財務省、文部科学省、経済産業省、関係府省)

・リーチサイト等を通じた侵害コンテンツへの誘導行為への対応に関して、権利保護と表現の自由のバランスに留意しつつ、関係者の意見を十分に踏まえ検討を行い、速やかな法案提出に向けて、必要な措置を講じる。(短期)(文部科学省)

・越境電子商取引の進展に伴う模倣品・海賊版の流入増加へ対応するため、個人使用目的を仮装して輸入される模倣品・海賊版を引き続き厳正に取り締まるとともに、特に増加が顕著な模倣品の個人使用目的の輸入については、権利者等の被害状況等及び諸外国における制度整備を含めた運用状況を把握しつつ、具体的な対応の方向性について検討する。(短期)(財務省、経済産業省)

・知財に関する教材の充実の観点から、海賊版対策を含めた著作権教育に資する教材等の在り方を検討した上で、教材等の開発・普及を行う。(短期、中期)(文部科学省)

・模倣品・海賊版を購入しないことはもとより、特に、侵害コンテンツについては、視聴者は無意識にそれを視聴し侵害者に利益をもたらすことから、侵害コンテンツを含む模倣品・海賊版を容認しないということが国民の規範意識に根差すよう、各省庁、関係機関が一体となった啓発活動を推進する。(短期、中期)(警察庁、消費者庁、財務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省)

 第392回で書いた通り、緊急対策と称するブロッキング要請について大きな問題があると私は思っているが、ここで、「サイトブロッキングに係る法制度整備」と法制度の検討にまで踏み込んだ記載となっていることは極めて危険であり、「有識者及び関係府省における検討の場」として知財本部の下に設けられるのだろう、インターネット上の海賊版対策に関する検討会議(6月22日に早速第1回との開催案内が既に出されている)で進められるのだろうサイトブロッキングに関する今後の検討は本当に要注意である。

 リーチサイト規制に関する検討は引き続き文化庁で行われて行くのだろうが、今回の知財計画で、速やかに法案提出と相当前のめりな記載になった。ここで、表現の自由に関する言及もあるものの、今の状況を見る限り、文化庁で危ない検討が行われるのではないかとかなり心配である。

 また、第23ページに、

・2018年度特許法改正により導入される、書類提出命令・検証物提示命令においてインカメラ手続で書類・検証物の提出の必要性を判断できるようにする制度及び中立的な第三者の技術専門家に秘密保持義務を課した上で証拠収集手続に関与できるようにする制度について、適切な運用を見守るとともに周知を行う。(短期)(経済産業省)

と、第24ページに、

・不正競争防止法におけるデータの不正取得等に対する差止めの創設等の整備を踏まえ、法の適切な運用環境を整備するため、ガイドラインの策定、不正競争防止法に関する普及・啓発などの必要な措置を講ずる。(短期、中期)(経済産業省)

と、第25・26ページに、

・著作権法における柔軟性のある権利制限規定の整備を踏まえ、法の適切な運用環境を整備するため、ガイドラインの策定、著作権に関する普及・啓発、及びライセンシング環境の整備促進などの必要な措置を講ずる。(短期)(文部科学省)

という、今回の各法改正の周知項目が含まれている。

 上の記載を見ると、文化庁としては今回の法改正で権利制限の一般フェアユース条項導入を巡る話を幕引きにしたいと思っているようだが、第389回で書いた通り、私は今回の著作権法改正は本当の意味で柔軟な一般フェアユース条項を導入するものとは全く思っていないし、これで諦めるつもりもない。

 第26ページには、

・クリエーターに適切に対価が還元され、コンテンツの再生産につながるよう、私的録音録画補償金制度の見直しや当該制度に代わる新たな仕組みの導入について、文化審議会において検討を進め、結論を得て、必要な措置を講ずる。(短期、中期)(文部科学省、経済産業省)

という、私的録音録画補償金制度の見直しに関する項目も残されている。

 後は、すぐに法改正につながるようには思えないが、第26ページには、

・権利者団体と協力して実施している実証事業の結果等を踏まえ、著作権者不明等の場合の裁定制度の利用円滑化に向けた方策について検討し、必要な措置を講ずる。(短期、中期)(文部科学省)

・著作物等の利用円滑化の観点から、拡大集中許諾制度に係るこれまでの調査研究等の結果を踏まえ、具体的課題について検討を進める。(短期、中期)(文部科学省)

という裁定や集中許諾制度に関する項目もある。

 今年の知財計画では、TPPが微妙な情勢にあることを、海賊版対策条約(ACTA)も死んだものであることを政府自ら認めたのだろう、重点事項からこれらの協定・条約に関する項目が落ちている。しかし、第78ページには、知財計画2017からの継続項目として載っているので別に政府として諦めたなどということは全くないのだろう。

 知財戦略ビジョンを見ても、今年の知財計画を見ても、例によっておよそロクでもないことしか書かれておらず、このような知財本部と知財計画の有様は、十年以上に渡り、日本政府に知財政策に関する戦略やビジョンが全くないことを端的に示し続けている。この体たらくでは、極めて残念なことながら、今後も知財を巡る政策的混乱が止まることはないだろう。

 なお、補足として、政府はよほど著作権法の改正によりサイトブロッキングやリーチサイトの取締りがしたいのだろうと見え、規制緩和方向の検討がなされる話では全くないが、規制改革推進会議の6月4日の第3次答申(pdf)でも、第50~51ページに、以下のような著作権に関する記載が追加されており、こちらではリーチサイト対策について平成31年度通常国会までに法案提出と期限まで書かれている。

②放送コンテンツの海外展開の支援
【a,b,c,f,g:平成30年度上期以降継続的に実施、d:平成31年通常国会までに法案提出、e:平成30年度早期に措置】
(略)
d インターネット上の海賊版サイトにつき、リーチサイト対策のための法整備を進める。
e 国境を越えたインターネット上の海賊版に対する対策の在り方について、有識者、関係府省、権利者、事業者等で連携して検討する場を設ける。
(略)

 また、何をどう検討するのかいまいち良く分からないが、規制改革推進会議の第3次答申の第53ページには以下のように放送コンテンツの流通促進の検討とそれを踏まえた著作権制度の見直しに対する言及もあり、今年は総務省でのコンテンツ流通に関する検討も同時に行われるようである。

②コンテンツ流通の推進
【a:平成30年度中に検討開始し、平成31年度結論・措置、b:平成30年度中に検討開始。検討状況を踏まえ順次実施。著作権制度の在り方についての必要に応じた見直しは平成31年度措置】
(略)
a 音楽分野における効率的な権利処理を実現するため、放送事業者等の利用者の意見を聞きながら権利情報データベースの実証事業(権利情報データベースの構築、当該データベースを活用した権利処理プラットフォームの構築)を進める。さらに、権利情報の集中管理、包括的な権利処理、収益の分配の全体が整合性をとった改革について、総務省が放送コンテンツの流通インフラ整備の必要性や課題を、関係府省の協力を得て整理するとともに、文化庁がその検討状況を踏まえつつ、総務省、経済産業省の協力を得ながら、著作権制度について必要な検討を行い、制度整備を行う。運用を含めその他の課題については、関係府省が必要な取組を行う。その際、ブロックチェーン技術、AI技術を活用した海外実務を参考にする。
b 同時配信に係る著作権等処理の円滑化のため、総務省放送コンテンツの製作・流通の促進等に関する検討委員会での検討結果を踏まえ、放送事業者における具体的な同時配信の展開手法やサービス内容を勘案し、所要の課題解決を行う。その際、例えば、拡大集中許諾制度など、放送に関わる著作権制度の在り方について、著作権等の適切な保護と公正な利用の促進とのバランスを図る観点から、新たな技術の進展なども踏まえ、必要な見直しを行う。

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